遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia:TD)は,2~3カ月以上の向精神薬投与を受けた患者に,舞踏様もしくはアテトーゼ様不随意運動が顔面,口部,体幹,四肢に生じる状態を指す1)。原因(惹起)薬剤はドパミン受容体ブロッカー(dopamine receptor blocker:DRB)機序を有する向精神薬であることが多く,長期投与の10~35%に生じるとされる2)。一方,抗うつ薬,セロトニン再取り込み阻害薬,モノアミン酸化酵素抑制薬,制吐薬,抗てんかん薬等幅広い機序の薬剤での報告もある。また,患者側のリスクとして,加齢,アルコール乱用・依存歴,女性,てんかん等が挙げられる。
診断上最も重要なことは,不随意運動が生じる前のDRB薬剤や他の精神神経作動薬の服用歴を確認することである。上記候補薬剤の開始,増量,そして時として減量や中止によってTDが惹起されうる。現在服用中のみならず,不随意運動発症前の服用薬剤種と用量について正確に把握することが,診断の第一歩となる。
不随意運動の種類は,時間や診察時の患者緊張度により影響を受けることを考慮し,不随意運動の性状とともに記録する。典型例のジスキネジア症状は,口部に出現することが多く,舌を突き出す,なめずり,舌鼓,口唇をすぼめる,口をもぐもぐとさせる,しかめ面,瞬目を繰り返す,額のしわ寄せ,チック運動などとして出現することや,体幹・四肢に出現するジスキネジアは,時にジストニアを混在することも多い3)。
診断に際して,神経画像検査や検体検査での特異的所見はない。鑑別すべき診断は,他の疾患により生じる不随意運動である。アカシジアやジストニアによる眼球偏位(oculogyric crisis)は薬剤を原因とすることが多い。高齢者に生じる口唇ジスキネジアは,時としてTDと鑑別がしばしば困難である。DRB薬剤の服用歴がある高齢者では,軽症であれば経過観察とするのも一法である。
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