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リドル(Liddle)症候群[私の治療]

No.5176 (2023年07月08日発行) P.45

古橋眞人 (札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座教授)

登録日: 2023-07-09

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  • リドル症候群(Liddle’s syndrome)は,若年発症の高血圧,低カリウム血症,代謝性アルカローシスなど原発性アルドステロン症と類似する臨床症状を示すが,血漿レニン活性(もしくはレニン濃度),血漿アルドステロン濃度は低値を示す,稀な常染色体優性遺伝の疾患である。主に腎臓の遠位尿細管から集合管に発現する上皮性ナトリウム(Na)チャネル(epithelial sodium channel:ENaC)の遺伝子異常により,ENaCの機能が亢進してNaと水が過剰に保持されるため血圧上昇をきたし,食塩感受性高血圧を呈する。また,Na再吸収亢進により尿細管腔内の電位が負に傾き,電気的勾配が働いて細胞内からカリウム(K)とプロトンが分泌され,低カリウム血症と代謝性アルカローシスが生じる。

    ▶診断のポイント

    思春期以降に低カリウム血症による症状(しびれ感,筋力低下など)や高血圧で発見されることが多い。リドル症候群は常染色体優性遺伝であり,比較的若年発症(多くは35歳未満)の家族性高血圧,低カリウム血症,代謝性アルカローシスを認めたときに本疾患を考える1)。ENaCのde novo mutationによる孤発例の報告もあるため,家族歴がない場合においても念頭に置く必要がある。

    リドル症候群のほかにも低カリウム血症を伴う二次性高血圧は多く,レニン・アルドステロン系および副腎皮質機能の確認が必要になる。原発性アルドステロン症やグルココルチコイド反応性アルドステロン症では低レニン・高アルドステロンになり,腎血管性高血圧では高レニン・高アルドステロンになり,クッシング症候群ではコルチゾールが高値になる。また,漢方薬に含まれる甘草(グリチルリチン酸)などで誘発される偽性アルドステロン症やAME(apparent mineralocorticoid excess)症候群では,リドル症候群と同様に低レニン・低アルドステロンを呈するが,それぞれ11βHSD(11β-hydroxysteroid dehydrogenase)の阻害と遺伝子欠損により,尿中コルチゾール/コルチゾン代謝産物比が高値になる。偽性アルドステロン症は薬剤摂取歴の聴取が診断につながることが多く,AME症候群はリドル症候群より若年発症で,3歳頃までに高度の高血圧,体重増加不良で発見されることが多い。

    リドル症候群ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン,エプレレノンなど)が無効であり,ENaCを阻害するトリアムテレンが著効することでも診断につながる。

    確定診断には,遺伝子検査でENaCのgain-of-functionの遺伝子変異を示す必要がある。これまでENaCの3個のサブユニット(α,β,γ)のうち,βとγサブユニットの変異が報告され,特にC末端側の細胞内ドメインのPYモチーフにおける変異が多く報告されている2)。これらの遺伝子変異によりENaCの分解が抑制され,膜表面上のチャネル数が増加する。結果として,Naの再吸収が増加し,食塩感受性高血圧を発症する。

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