No.5181 (2023年08月12日発行) P.63
森 浩一 (国立障害者リハビリテーションセンター顧問)
登録日: 2023-07-26
最終更新日: 2023-07-26
明確な原因がなく、加齢とともに聴力が悪化するのを加齢性難聴と呼ぶ。主要因は動脈硬化と騒音暴露であるが、これらを改善しても聴力は戻らないので、補聴するか筆談や手話通訳等を使う必要がある。後期高齢者の半数程度に難聴がある。
難聴になると人の話を聞き取るのに努力が必要になり、聞くだけで疲れやすくなる。高齢者では電話や会話が楽しめず、人づきあいが減り、車の音が聞こえにくくて外出に不安があるなどで、うつのリスクが上がる。適切に補聴しないと、認知症のリスクも高くなることが既に明らかになっており、さらに補聴によって認知症が改善する可能性まで指摘され1)、高齢者の難聴を放置するのは非推奨となった。
難聴と補聴器について、日本補聴器工業会委託の調査がある2)。これによると、難聴者は全年齢平均で人口の10%程度であり、欧州と変わらない。しかしその中で補聴器を持っている割合は、欧州の40%前後に対し、日本は15%とかなり低い。人工内耳にいたっては、認知度が全体の4分の1しかない。補聴器所有者の満足度についても、欧州の8割前後に比して、日本は5割である。ただし、2020年以降の購入者と、認定補聴器技能者の調整を受けた者の満足度は約6割なので、近年の補聴器の技術進歩と、耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の補聴器相談医3)も含めた専門家による対応の改善が貢献しているのかもしれない。
補聴器不使用者の4割はその理由に経済的理由を挙げているが、最近は軽・中等度難聴でも補聴器購入費の補助をする自治体が増えた。また、医療に必要との補聴器相談医の意見書があれば、購入費用は医療費控除の対象となる4)。高度・重度難聴者では福祉による給付があり、人工内耳は医療保険でカバーされる。
一般に難聴から補聴まで数年以上経過することが多い2)。難聴が進行してからでは補聴器の適合調整に時間がかかりがちである。また、認知症が進行してからの補聴開始は困難が大きいので、早期対応が望ましい。定年退職後は職場健診による聴力検査がなくなるため、年に1度は機会を作って聴力を調べることが推奨される。補聴器を使うきっかけとしては、周囲や医師による難聴の指摘と補聴の勧めが重要である。聴覚について専門外の方は、認定補聴器相談医3)に紹介して頂くとよい。
【文献】
1)Yeo BSY, et al:JAMA Neurol. 2023;80:134-41.
https://doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.4427
2)anovum:JapanTrak. 2022.
http://www.hochouki.com/files/JAPAN_Trak_2022_report.pdf
3)日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:認定補聴器相談医名簿.(随時更新)
https://www.jibika.or.jp/modules/certification/index.php?content_id=39
4)国税庁:補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて.(2018年4月16日)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/180416/
森 浩一(国立障害者リハビリテーションセンター顧問)[加齢性難聴][認知症][補聴器相談医]