COVID-19の急性期の症候は通常2週間程度で改善するが,症候が長引いたり再燃したりする患者が一定程度(少なく見積もって10人に1人)存在する。
発症1カ月後に症候が残存する患者の2/3は発症3カ月後までに改善する。
プライマリ・ケア医は,社会活動を中断せざるをえないほどの心身の不調がある場合を除いては,発症後6カ月間程度は対症療法で経過をみてもよい。
高校生,男子。運動部で活発に活動していた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患し10日間自宅療養した後に登校を再開し,部活にも参加した。数日して咽頭痛,頭痛,全身倦怠感が再燃し登校不能となった。複数の医療機関を受診するも明らかな異常所見なしとされ,発症約1カ月後に「コロナ後遺症外来」を受診した。
初診時は,「体調は少し改善した」とのことであったが,起立性頻拍が著明であった(臥位70台/分→立位110~120台/分,4分で立位保持困難となった)。治療は鍼灸や整体など家族が希望する補完代替医療は可とし,漢方薬処方で経過を追うと,少しずつ症状は改善するも倦怠感,頭痛は続いた。初診から約1カ月(発症後2カ月)後に朝起きたら倦怠感は消失していた。その後は当時処方していた補中益気湯の服用を継続しながら,急激に活動レベルを上げ過ぎないように注意するようアドバイスし,体調の回復が続いたが,4カ月後でも起立性頻拍(臥位70台/分→立位110台/分)は続いていた。活動の増やし方を慎重に,しかし少しずつは増やしていくようにアドバイスし,7カ月後には起立性頻拍も改善し,生活も元通りにできるようになった。
2019年12月に中国の武漢で原因不明の肺炎患者が報告され, 2020年1月にはその原因が新種のコロナウイルスであることが確認された。その後同症は中国から世界へ拡大し,原因ウイルスはInternational Committee on Taxonomy of Viruses(ICTV)によってsevere acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)と命名され,世界保健機関(WHO)がその感染による疾患をcoronavirus disease 2019(COVID- 19)と命名した。2020年3月11日には, WHOが世界各地での流行についてパンデミック相当との見解を示した。
COVID-19の急性期はおおむね2週間程度で回復するが,急性期を過ぎても様々な症候が改善しない患者が一定数存在し,“Long COVID”などの呼称(以下,COVID-19罹患後症状)で世界的な問題になっている。
筆者らは,COVID-19罹患後症状の患者の約10%が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)の診断基準を満たすと推定されている1)ことをふまえて,COVID-19罹患後症状の患者の急増に強い危機感を感じ,COVID-19罹患後症状の患者がME/CFS患者と同じ道をたどらないようにするためにも,日本全国に「ME/CFSおよびCOVID-19罹患後症状の診療ネットワーク」を構築することが喫緊の課題であるとする提言を本誌に発表した2)。
この提言後も,筆者らはCOVID-19罹患後症状患者の診療を続けているが,パンデミックが始まって3年が経過しようとする現在,ME/CFSの診断基準の「6カ月以上の病悩期間」を満たす患者が増えてきている。
本稿では,筆者らが現在外来で診療することが多い,入院を要さず自宅待機やホテル療養で急性期を経過した患者の病態に焦点を当て,今後も増え続けると予想されるCOVID-19罹患後症状患者の診療の一助として頂くべく,筆者らのME/CFSおよびCOVID-19罹患後症状の診療経験と最近の文献的考察に基づいて,診断・治療・日常生活のアドバイスについて述べる。