帯状疱疹は,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に特異的な細胞性免疫が低下することによって,知覚神経節に潜伏感染しているVZVが再活性化して発症する。帯状疱疹患者数は各世代で年々増加しているが,とりわけ2014年から水痘ワクチンが定期接種化されて以降,かつて水痘罹患児からのVZV曝露による免疫ブースター効果を受けていた子育て世代の患者数の増加が著しい。近年,新型コロナウイルスの感染予防対策に伴う行動変容によって,水痘患者数が激減している。このため,ナチュラルブースター効果のさらなる減少が,帯状疱疹患者数の増加に拍車をかけることが危惧される。
患者の片側性のデルマトーム(皮膚分節知覚帯)に一致して,帯状に並ぶ紅暈を伴った小水疱,紅色丘疹,小紅斑が集簇性に出現するため,比較的診断は容易である。三叉神経,肋間神経,腰部・坐骨神経領域などの好発部位での発症も診断の一助になる。皮疹が1~数個の紅暈を伴った孤立性小水疱のみのこともあり,診断に迷った場合はイムノクロマト法によるVZV抗原検出キットやTzanck試験を用いる。また,明らかな小水疱を欠く場合(zoster sine herpete)は,数日間抗ウイルス薬を投与し,痛みの消失状況などを観察して診断している。AIDSや悪性腫瘍,重症感染症,免疫抑制薬・抗癌剤などの内服によって宿主の細胞性免疫能が低下している状態では本症が発症しやすく,また重症化しやすい。
できるだけ早期の抗ウイルス薬内服が治療の基本である。また,重症例や免疫能が低下している患者,あるいは汎発疹(デルマトームを超えて皮疹がみられる)を認める症例などでは入院の上,抗ウイルス薬の点滴静注を行う。
患者は高齢者が多く,帯状疱疹後神経痛(PHN)のリスクが高いため,内服薬としては抗ウイルス効果の高いアメナメビルあるいは疼痛軽減効果がバラシクロビルより高いファムシクロビルを主に用いている1)。
VZVのDNA合成には概日リズムがあり,昼前頃から徐々に盛んとなって夕方にピークを迎えると考えられている2)3)。そのため,他の核酸アナログ系の抗ウイルス薬とは作用機序がまったく異なるアメナメビルの1日1回の内服時間には,この概日リズムを考慮する必要がある。同剤がVZVのDNA合成をより初期段階で阻害することや,Tmaxが服用後約3時間であることなどを考慮して,初診日は「直近の食後」に,翌日からは「朝食後」に服用するように指導している。
核酸アナログ系の抗ウイルス薬を腎機能障害患者に投与する場合は,急性腎障害や脳症といった副作用の発現リスクが高まるため,クレアチニンクリアランスによって内服あるいは静注の投与量を調整する。
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