ハンチントン病(Huntington’s disease:HD)は舞踏運動などの不随意運動,様々な精神症状を主症状とする顕性遺伝の進行性変性性神経疾患である。確定診断は遺伝子診断によるが,遺伝子診断にあたっては日本神経学会による遺伝子診断ガイドライン1)を遵守し,十分な説明を行って患者の自発的な意思に基づいて実施する。発症年齢は様々で,最多は30歳代である。20歳以前の発症例を若年型HDと呼び,成人発症例よりもより重篤である。運動症状,精神症状,もしくは両者で発症する2)3)。
運動症状は典型的成人発症HDの場合,早期には協調運動の微細な障害と軽微な不随意運動,運動持続障害(motor impersistence)を認める。病期の進行に伴い,舞踏運動,その他の不随意運動(多くはジストニア)が加わる。顔面の舞踏運動〔顔しかめ運動(grimacing)〕,舌・咽頭・喉頭の運動障害による発声や発語障害,嚥下障害をきたす。歩行は中期頃までは可能であるが,さらに進行すると日常生活すべてに介助が必要となり,精神症状の増悪と相まって失外套状態となる。
精神症状はHD患者の家庭生活や社会生活を著しく阻害する因子であり,中核症状は人格の変化と認知機能障害である。頻度の高い症状は,性格変化,易刺激性,攻撃性,脱抑制,衝動性・強迫性行動障害,共感の欠如,アパシーなどがあり,これに情動の不安定さ,易疲労性,不眠,うつ状態が様々な程度で加わる。認知機能障害の特徴は,前頭葉・側頭葉型認知障害であり,遂行機能障害,作業記憶の障害,注意障害,視空間認知障害がみられる。経過に伴い,しだいに記銘力低下,判断力低下,学習能力低下が顕在化する。知的機能障害は若年型で著しい。
HDで留意すべき症状としては自殺企図がある。自殺企図は発症早期にみられることが多く,診断に対する反応性のもの,うつに関連するもの,衝動行為としてのものがある。睡眠障害も比較的頻度が高く,通常,難治性である。なお,進行期にはてんかん発作を合併することもあるが,発作型は様々である。
平均罹病期間は15~20年で,死因は病状の進行に伴う機能障害に基づくが,窒息,自殺,転倒などの突発的事故も念頭に置く必要がある。根本的治療法は現時点ではなく,開発途上である。なお,2022年に着床前遺伝子診断に基づく妊娠・出産が認められた。
治療にあたっては運動症状と精神症状とを総合的に考慮して薬物を選択する。舞踏運動にはテトラベナジンが有効であるが,効果持続時間が短く,長期効果もない。舞踏運動と精神症状を認める場合には,定型・非定型抗精神病薬やベンザミド系抗精神病薬が勧められる。衝動性行動が顕著な場合には選択的セロトニン再取込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が有用であるが,精神症状を増悪することもあるので,注意する。
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