慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)とは,2カ月以上にわたり進行性または再発性の経過を示す四肢の筋力低下やしびれなどの感覚障害をきたす末梢神経疾患で,末梢神経に対する自己免疫が関与している。経過は,単相性,再発性,進行性があり,臨床型は多様で,治療としては,寛解導入療法と維持療法,対症療法がある。
四肢筋力低下や感覚障害があり,四肢腱反射低下または消失,神経伝導検査で末梢神経の脱髄所見を認め,他の末梢神経障害をきたす疾患が除外されることで診断される。2021年に改訂されたEuropean Academy of Neurology/Peripheral Nerve Society(EAN/PNS)のCIDP診療ガイドラインでは,典型的CIDPとCIDP亜型 (遠位型CIDP,多巣性CIDP,限局型CIDP,運動型CIDP,感覚型CIDP)に分類されている1)。
寛解導入療法には,経静脈的免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin:IVIg),ステロイド療法(連日経口投与,パルス療法),血漿浄化療法(plasmapheresis:PP)を選択する。これらのうちの1つの治療で反応が乏しい場合は,別の治療を試みる。いずれの治療でも反応が乏しい場合は,CIDPの診断が正しいか検討する。
維持療法は,寛解導入療法で最も効果がみられた治療方法を用いて行う。維持療法として,定期的IVIgあるいは免疫グロブリン皮下注療法(subcutaneous immunoglobulin:SCIg),ステロイド内服療法,PPがある。IVIg維持療法は免疫グロブリン1g/kgを3週ごとに行う方法が基本的であるが,患者の病状により,症状安定に必要な用量や間隔を同定して行う場合も多い。SCIgは免疫グロブリン皮下注製剤を200~400mg/kg週1回(1日または連続する2日に分割して)皮下投与する方法である。SCIgのほうがIVIgよりも血清IgGの濃度をより一定に保てること,自己注射が可能で自宅で治療できること,などのメリットがある。PPが最も効果がある場合には,定期的PPを行う場合もある。あるいは,これらの治療を併用することもあるほか,補足的にステロイド少量内服または免疫抑制薬を併用する場合もある。
必要な患者には,しびれや痛みなどの感覚障害に対する対症療法を併用する。
寛解導入療法は,可能な限り早期に積極的に行う。ただし,診断や治療が遅れた場合でも,一度は実施し反応性をみる。1つの治療法で反応性が乏しい場合や副作用で使用困難な場合には,他の治療法を試みる。
維持療法は,寛解導入療法で効果があった薬剤,治療法を選択することで,良好な経過を得やすい。IVIgで維持する場合,治療関連変動(treatment-related fluctuation)が起こるときは,適宜投与間隔の短縮や,投与量増加を検討する必要がある。単剤で維持が困難な場合は,ステロイド経口薬や免疫抑制薬の併用を検討する。維持療法でのSCIg中,最大用量でも症状が悪化する場合には,IVIgの追加など寛解導入療法に実施した治療法の追加を検討する。できるだけover treatment,under treatmentにならないように,患者の病勢によって投与量や投与間隔を調整する。症状が落ちついている場合は,投与量の減量,投与間隔の延長を試みる。
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