麻疹ウイルスによる感染症で,カタル症状,結膜炎,二峰性の発熱,紅斑からなる特徴的な臨床像を呈する。空気感染で伝播し,感染力がきわめて強く,肺炎や脳炎など合併症の頻度が高いため,公衆衛生学的に重要な位置づけにあるが,予防接種により制御可能な疾患である。国内では2006年に乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)の2回接種が定期接種化され,2015年に麻疹排除国と認定された。近年は海外からの輸入例を起点に,麻疹に対する免疫が不十分な成人層を中心に伝播する事例が散見される。
かつては臨床診断が可能な疾患であったが,現在では接触歴と症状・所見から臨床診断した場合は保健所に届け出た上で,全例に対して検査診断を行うことが必要である。ワクチン未接種者における典型的な麻疹は,8~12日の潜伏期間(7~最長21日)の後にカタル期,発疹期,回復期を経て自然回復する。カタル期は38℃前後の発熱が2~4日間続き,上気道炎症状(咳嗽,鼻漏,咽頭痛)と結膜炎症状(結膜充血,眼脂,羞明)が現れる。発疹出現の1~2日前に頬粘膜内側にKoplik斑が出現するがこれは数日で消失する。発疹期はカタル期での発熱が下降した後,半日くらいで再び高熱となり(二峰性発熱),斑丘疹が毛髪線から始まり耳後部,頸部,前額部から,遠心性に体幹部,四肢末端にまで広がる。紅斑はやがて暗赤色の丘疹となり,融合傾向を示す。発疹出現後から3~4日間後に回復期に入ると解熱し,全身状態が改善してくる。発疹は退色し,色素沈着がしばらく残る。ウイルス排泄期間は,発疹出現4日前から発疹出現後4日までである。
麻疹に対する免疫を有する場合は,比較的軽症の修飾麻疹という病型をとる。潜伏期間は14~20日と長いことが多く,カタル症状が欠落あるいは軽度で,Koplik斑も認めず,発疹も癒合傾向を認めない。臨床症状が認められる期間も短縮されることが多く,合併症も少ない。感染力は自然麻疹と比べて低い。
感染症法では5類(全数把握疾患)で届け出が必要であり,ウイルス分離同定やPCR検査で確定診断を行うため,咽頭ぬぐい液,血清,尿などの検体を保健所に依頼し地方衛生研究所へ提出する。血清学的な診断は特異的IgM抗体高値,ペア血清によるIgG抗体の上昇で行う。IgMは感染後1~3日で上昇し2~4週間でピークとなるが,発症3日以内ではIgM偽陰性率は20%であるため,必ずペア血清でIgG抗体を評価する。
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