日本産科婦人科学会が、「生まれてくる子どものための医療(生殖・周産期)に関わる生命倫理について審議・監理・運営する公的プラットホームの設置」を国に提案している。その背景と方向性を、同学会臨床倫理監理委員会委員長の鈴木直・聖マリアンナ医科大学産婦人科学主任教授に聞いた。
生殖補助医療に関しては、第三者からの精子・卵子等の提供、代理懐胎、着床前遺伝学的検査(PGT-M、PGT-A/SR)、出生前遺伝学的検査(NIPT)、死後生殖の問題など、医学・医療の進歩に伴って様々な倫理的な課題や懸念が生じています。
これまで当学会では、臨床・研究を遂行する際に、倫理的に注意すべき事項に関する見解を会告として公表し、自主規制をしてきました。会告を遵守しない会員に対しては状況を調査し、最悪の場合除名処分になります。しかし、仲間を裁く形ですし、会告は会員が所属している施設に対してのみ有効で、極端な話、会員以外は罰則を受けることもなく何でもできてしまう可能性があります。
たとえば当学会では、体外受精の際に問題のない受精卵を選んで子宮に戻す着床前診断の範囲を会告で制限しています。2005年には、当時の会告に違反して除名された産婦人科医らが、学会の会告は患者の子を産む権利を侵害するなどとして、会告の無効確認を求める裁判を起こしたこともありました。東京地裁は、「着床前診断の制限は違法ではない」という判決を2007年に下し、除名された医師の請求を棄却しました。