百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)による急性呼吸器感染症である。百日咳菌が産生する毒素が気道粘膜を障害することで,長期間にわたる咳嗽を呈する。典型的には,鼻汁や軽度の咳嗽からなるカタル期(約2週間)を経て,激しい咳嗽からなる痙咳期(約3週間),回復期(約3カ月)の3期にわかれる。乳幼児は特徴的な咳嗽は少ない一方で,無呼吸発作,肺炎,肺高血圧症,脳症など,重篤な合併症をきたしうる。感染力が強く疾病負荷が大きいため,百日咳含有ワクチンは4種混合ワクチンの一部に含まれ,生後2カ月からの接種が行われている。なお,ワクチンの感染防御効果は長期に続かないため,学童期における3種混合ワクチンの追加接種が任意で推奨されている。
特徴のある咳嗽や接触歴から診断を疑う。通常は発熱を伴わない。痙咳期における咳嗽の特徴は,短い咳の連続(staccato)の直後の吸気性笛音(whoop)であり,これを繰り返す(reprise)。一連の咳嗽に嘔吐,顔面の紅潮,あるいは無呼吸による顔色不良を伴うことがある。一方で年長児期以降や成人では,典型的な発作を認めないことが多い。
一般検査で,白血球(リンパ球)の増加が特徴的であり,特に初感染の乳幼児では数万に達することもある。CRPの上昇は通常認めない。病原体の検査法として,鼻腔咽頭擦過物を用いた培養,迅速抗原検査(PCR法との比較において,両者の相関データ上,感度は85%以上,特異度は95%以上),核酸増幅法による検出のほか,血清学的検査法が存在し,これらを組み合わせて診断に至る(図)1)。近年,百日咳菌抗原キットが開発され使用可能となっている。菌体が検出されるのはカタル期~痙咳期初期であり,臨床的に疑った時点で迅速検査が陰性の可能性はある。その場合は,抗体検査で診断する。
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