自律神経系の循環調節不全のために,起立に伴う循環動態の変化に対応できず様々な身体的不調を訴える。基本的には身体疾患だが,心理社会的因子が関与することもあり,回復には年単位の時間を要することも多い。問診や身体評価を丁寧に繰り返し,本人・家族・学校の疾病理解・受容が進むようなマネジメントを心がける。
問診から起立性調節障害が疑われる場合,まずは不整脈,てんかん,甲状腺機能異常など,他の身体疾患の可能性を除外するための検査を実施する。次に,新起立試験により病型分類を行う(起立直後性低血圧・体位性頻脈症候群・血管迷走神経性失神・遅延性起立性低血圧)。新起立試験は簡易検査であり,臨床上起立性調節障害が強く疑われても検査で判断できない場合もある。
疾病教育においては「起立性調節障害は身体疾患である」という認識を明確にし,起立(起床)時には時間をかける,日中は臥位にならない(起立耐性悪化防止のため),生活リズムを整える,十分な水分と塩分の摂取など,家族とともに取り組める非薬物療法から開始する。身体重症度と心理社会的因子の関与度に応じて,学校への指導や連携,薬物療法,環境調整,心理療法を組み合わせる。
日常生活や学校生活に支障がある場合には,薬物療法の導入を検討する。起床時のミドドリン塩酸塩内服を基本とし,状況に応じて昼(午後も症状が持続する場合),あるいは就寝前(早朝の症状が強い場合)に追加する。起立試験に改善がない場合,起立直後性低血圧ではアメジニウムメチル硫酸塩に変更,体位性頻脈症候群ではプロプラノロール塩酸塩を併用する。
診療に際しては,丁寧な問診や診察による身体評価を繰り返し,起立性調節障害という体質を,患者本人だけでなく周囲も正しく理解し受容が進んでいるかを確認することに主眼を置く。患者本人に対しては,共感的態度に終始せず起立性調節障害に関する医学的な治療介入を意識して対応する。身体症状の中で改善した部分や生活指導において実践したことがあれば高く評価するなど,行動療法的な対応を意識する。また,本人が実行可能と思える目標を設定し,確実に成功体験を積みながらスモールステップで行動拡大につなげられるよう調整する。さらには,保護者の不安,家庭での困難感も十分に理解した上で,疾病教育を繰り返し,周囲の理解や受容が進むようサポートする。
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