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コンゴ民主共和国におけるcladeⅠによるエムポックスのアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(19)]

No.5205 (2024年01月27日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-01-24

最終更新日: 2024-01-23

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●エムポックスとは1)

エムポックス(旧名称:サル痘)は,オルソポックスウイルス属のエムポックスウイルス(mpox virus)による急性発疹性疾患で,日本では,感染症法の4類感染症に位置づけられています。1970年にヒトでの感染が確認されて以来,中央アフリカから西アフリカにかけて流行しています。

エムポックスウイルスはcladeⅠ(コンゴ盆地clade)とcladeⅡ(さらに西アフリカclade,cladeⅡaとⅡbにわかれます)の2系統が確認されています。cladeⅠによる感染例の死亡率は10%程度であるのに対し,cladeⅡによる感染例の死亡率は1%程度と報告されています。

2022年5月以降,欧州や米国等,これまで流行がみられなかった複数の国と地域で,渡航歴がなくエムポックス患者との疫学的リンクの確認できない患者が複数報告され世界的な流行となったエムポックスは,cladeⅡ a/bによるものでした。今回の世界的な流行の主な感染経路は,男性間の性交渉を行う者(men who have sex with men:MSM)における性交渉時の皮膚・粘膜接触による感染事例でした。

●コンゴ民主共和国におけるcladeⅠによるエムポックスの流行2)3)

2023年1月1日〜11月12日に,コンゴ民主共和国から過去最多となる26州中22州で581人の死亡(致命率4.6%)を含む,1万2569人の疑い症例がWHOに報告されました。キンシャサ,ルアラバ,南キヴなど,これまで報告されていなかった地域で新たな症例が発生しました。疑い症例のうち,1106例がPCRにより検査され,714例がエムポックスウイルス陽性でした(陽性率65%)。

2023年3月には,コンゴ民主共和国のケンジュにおいて,性的接触に伴うcladeⅠの集団感染事例が初めて報告されました。発端となった症例は,コンゴ民主共和国への頻回の渡航歴のあるMSMで,ベルギーからキンシャサに到着した当日に陰部症状が出現し,その後移動したケンジュでcladeⅠによるエムポックスと診断されました。この間に男性6人,女性3人との性的接触があり,うち3例が発症,2次感染例と性的接触のあった1例の症例と合わせ,5例の性的接触に伴うエムポックス症例が報告されました。これらの症例から検出された3件で,コンゴ民主共和国で流行している他のcladeⅠと近縁であることが判明しました。

●コンゴ民主共和国におけるcladeⅠによるエムポックスの流行のインパクト

コンゴ民主共和国ではこれまで,cladeⅡに関連する症例は報告されておらず,死亡率の高いcladeⅠのみが検出されています。さらに,性的接触に関した集団発生も今回が初めてです。現時点で,コンゴ民主共和国内での感染拡大のリスクはあるものの,同国外への感染拡大のリスクは低いとされています。しかしながら,cladeⅡよりも重症化するリスクが高いcladeⅠの感染拡大に備えて,診断,治療体制の整備や疫学調査といったエムポックス対策の継続が必要とされています。

【文献】

1) 国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター 感染症対策支援サービス:エムポックス. (2023年12月26日アクセス)

2) WHO:Mpox (monkeypox)- Democratic Republic of the Congo. (2023年12月26日アクセス)

3) Kibungu EM, et al:Emerg Infect Dis. 2024;30 (1):172-6.

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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