ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)は先行感染が契機となって発症する,運動障害優位の自己免疫性末梢神経障害である。典型的には四肢の筋力低下を主徴とするが,四肢麻痺を欠き,眼球運動麻痺・運動失調・腱反射を三徴とするフィッシャー症候群(Fisher syndrome:FS)もGBSの臨床亜型として理解されている。
神経所見と神経伝導検査で末梢神経疾患の存在を確認し,最終的に4週間以内にピークを迎え,緩徐に軽快する急性一過性経過を確認する。血中に糖脂質抗体が検出されれば診断が支持されるが,その意義は抗体の種類や抗体力価をふまえて判断する。神経症状発症時に先行感染症状は消失していることが原則で,感染症状が持続していれば他疾患を優先的に疑う。
その他の検査は主として鑑別診断目的であり,血液検査では筋炎や重症筋無力症,低カリウム性ミオパチー,脚気ニューロパチー,ウェルニッケ脳症などを,尿検査では急性間欠性ポルフィリン症を,脊髄MRIでは脊椎症や脊髄炎などを,脳MRIでは中枢神経障害(脳血管障害や脱髄性疾患など)を鑑別疾患として検査する。脳脊髄液検査での「蛋白細胞解離」(=蛋白は上昇し,細胞数は正常)は,本症に特異的な所見でない点に留意する。
免疫治療と支持療法(合併症の予防・治療,リハビリテーション)を行う。免疫治療は原則として,一定以上の重症度(自力歩行不可が目安)かつ急性進行期(=発症4週以内かつ回復傾向を示していない時期)が対象である。自律神経障害や球麻痺があったり,症状増悪速度が速かったりすれば,より軽症でも免疫治療を行う。支持療法としては,呼吸不全や感染症(誤嚥性肺炎)に加え,不整脈・血圧変動や深部静脈血栓症などの出現に注意し,モニター監視下での全身管理を行う。特に,呼吸機能が保たれていても嚥下障害が高度(唾が飲みこめないのを目安にする)の場合には,誤嚥性肺炎の予防のため気管内挿管だけでも積極的に行う。膝立てが自力でできない程度にまで下肢筋力低下が進行した場合には,深部静脈血栓症の予防を行う。免疫治療として,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)と単純血漿交換療法があるが,簡便性を重視しIVIgを第一選択とし,速やかに開始する。
残り968文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する