SGLT2阻害薬開始直後の推算糸球体濾過率(eGFR)の軽度減少(initial dip)は糸球体内圧低下のマーカーとされ、糸球体高血圧是正を介した腎保護作用の作用機序/予知因子と考えられてきた[Meraz-Muñoz AY, et al. 2021]。しかし極度の左室駆出率低下を認めない心不全(HFmr/pEF)例では、eGFR“initial dip”が大きいとその後の腎転帰が増悪する可能性が示された。大規模ランダム化比較試験"EMPEROR-Preserved"の追加解析として、フランス・ロレーヌ大学のTripti Rastogi氏らが1月21日、European Journal of Heart Failure誌で報告した。
今回の解析対象はEMPEROR-Preserved試験参加例中、試験開始4週間後のeGFR変化幅が評価可能だった5836例である。同試験では「NT-proBNP上昇」を伴う「左室駆出率>40%」の症候性心不全5988例を、SGLT2阻害薬群とプラセボ群にランダム化した。
「”initial dip”幅の大小」と「その後の心腎イベントリスク」の関係を、SGLT2阻害薬群とプラセボ群別に検討した。“initial dip”幅は試験開始4週間後のeGFR低下幅三分位で評価した。
・腎転帰
SGLT2阻害薬群では、開始後のeGFR"initial dip”幅が大きいと腎転帰は増悪していた。すなわち開始4週間後eGFR低下「最大」三分位群(低下幅≧11.8%)における腎疾患増悪(透析導入・持続的な40%以上のeGFR低下)のハザード比(HR)は、「最小」群(低下幅<1.1%)に比べ2.12(95%信頼区間[CI]:1.29-3.46)の有意高値だった。この腎転帰はEMPEROR-Preserved本体で、2次評価項目の1つとされていたものである。
一方、プラセボ群では”initial dip”幅「最小」三分位群(最大4.0%上昇)に比べた「最大」群(低下幅≧5.1%)の上記腎イベントのHRは1.57(95%CI:0.99-2.47)で、有意差には至らなかった。
・CVイベント(1次評価項目)
SGLT2阻害薬群では開始4週間後の”initial dip”幅「最小」「第二」「最大」三分位群間で、「CV死亡・心不全(HF)初回入院」のリスクに有意差はなかった。
対照的にプラセボ群では、開始4週間後のeGFR低下幅「最大」三分位群では「最小」群に比べ、「CV死亡・HF初回入院」のHRが1.46の有意高値だった(95%CI:1.17-1.82)。
Rastogi氏らはこの結果から「SGLT2阻害薬開始後に若干のeGFR低下を認めても、CV転帰に悪影響はない」と結論している。また腎転帰についても、上記イベント中「持続的な40%以上のeGFR低下」を「50%以上」に置き換えると"initial dip"幅「最小」「第二」「最大」三分位群間に「腎疾患増悪」リスクの有意差はなくなるため、"initial dip"幅が大きくても悪影響はないと考察している。
EMPEROR-Preserved試験は、Boehringer Ingelheim and Eli Lilly and Company Diabetes Allianceから資金提供を受けた。