アキレス腱断裂は,30~50歳代に受傷することが多い。受傷原因は,スポーツのほか,転倒,転落など事故などでの損傷もある。アキレス腱断裂受傷時の感覚として,後方よりぶつかられたり,蹴られたりするような感覚などを訴えることもある。臨床症状は,アキレス腱断裂部に一致した痛みがあることが多いが,自覚症状が少ないこともあるので注意が必要である。アキレス腱断裂後でも歩行は可能であるため,動くことができるからといってアキレス腱断裂を見逃さないことが大切である。
診察所見として,視診ではアキレス腱のレリーフの消失とともに,断裂部で陥凹を認める。アキレス腱断裂に伴い腫脹があるときは,陥凹がわかりにくいこともあるので注意が必要である。理学所見として,Thompsonテスト1)は有用である。このテストは,腹臥位になり膝を90°曲げた状態でふくらはぎをつかむテストであり,足関節の底屈を認めなければ(動かない状態)アキレス腱が断裂している。単純X線検査では,アキレス腱の石灰化や踵骨付着部の裂離骨折を確認する。また軟部組織の陰影も確認する。超音波検査は有用であり,非侵襲的で客観的に断裂を確認できる検査法である。正常なアキレス腱では,長軸像で連続性をもつ均一な線維状の低エコーを確認できるが,アキレス腱断裂では,断裂と血腫による線維の不連続性が認められる。アキレス腱断裂部の断端形態や腱同士の接触状況を評価することにより,治療法の選択を行う。治療の経過観察時においても,腱の修復状態を把握することができる。MRI検査は,アキレス腱周囲軟部組織の状態の評価にも有用な検査である。
保存療法と手術療法がある。患者の手術希望,年齢,職業,スポーツ歴などを考慮し治療法を選択する。また,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会の「アキレス腱断裂診療ガイドライン」2)を確認することが推奨される。
保存療法では,受傷後底屈位でギプス固定を行う。治療経過を,超音波検査で確認することは有用である。ギプス固定期間は,早期より足趾の運動ができるようにする。受傷後4週で荷重可能な短下肢装具に変更し全荷重歩行に移行する。短下肢装具は,踵部分にパッドが入っているので,段階的に外していく。適切かつ厳密な保存療法を行った場合の治療成績は良好であることが知られている。
手術療法は,スポーツをするなど活動性の高い患者や早期社会復帰をめざす患者に行う。アキレス腱断裂部を中心に小皮膚切開を置きアキレス腱を縫合する。術後2週間まではギプス固定をし,それ以降は短下肢装具へ切り替えて全荷重歩行にする。小切開で縫合できる経皮的縫合を用いることもある。手術療法の利点として,早期の社会復帰や筋力低下の予防などが挙げられる。
残り683文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する