・手掌と足底に無菌性膿疱が多発する疾患で,膿疱に混じて水疱がみられ,消長をくり返しながら慢性の経過をたどる。
・圧倒的に日本人に多く,病巣感染と喫煙が発症に強く関わる。
・欧米人では膿疱性乾癬の掌蹠限局型という稀な一型をさし,乾癬の治療が行われる。
・掌蹠膿疱症に合併する骨炎,付着部炎,関節炎である。
・SAPHO症候群の半数以上を占め,日本人に最も多い。
・病巣感染と喫煙が発症契機に強く関わる。
・診断には,①皮膚科専門医による掌蹠膿疱症の診断,②非化膿性骨関節炎または無菌性骨炎を示す理学・画像所見が必要である。
・治療では病巣治療と禁煙が優先される。
・生物学的製剤も補助療法に位置づけられる。
・病巣には,病巣扁桃,歯性病巣(根尖性歯周炎,辺縁性歯周炎,智歯周囲炎),副鼻腔炎がある。
・病巣は臨床的に無症状である。
・歯性病巣はオルソパントモグラフィーやCT,歯周ポケット計測で検出可能であり,全例で歯科にコンサルトする。
・病巣扁桃を検出する検査はない。
・歯性病巣を放置すると,脊椎炎から骨強直や圧迫骨折をきたすリスクとなる。
・根尖性歯周炎の治療には,根管治療,歯根端切除,抜歯がある。
・扁桃摘出の有効率は80%を超える。
・皮膚科,整形外科が診断と治療方針を担当し,治療の主軸を歯科と耳鼻咽喉科が担う。
掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis:PPP)は圧倒的に日本人に多く,そのほとんどが扁桃や歯性病巣,副鼻腔炎などの病巣感染と喫煙に関連する反応性疾患である。同じPPPの名称で扱われる欧米例は膿疱性乾癬の限局型をさし,治療も異なる。
日本皮膚科学会より『掌蹠膿疱症診療の手引き2022』が上梓され,PPPの定義(表1)と治療方針(図1)が正式に示された1)。
PPPとは,手掌と足底,あるいはそのいずれかの部位に,新旧の無菌性膿疱が多発する疾患であり,膿疱に混じて水疱がみられ,消長をくり返しながら慢性の経過をたどる。これは,圧倒的多数を占める日本人型のPPPを定義したものであり,同手引きの2章【解説】に,欧米人のPPPとの相違も述べつつ,日本人のPPPにおける病態と治療方針を明記した点で画期的と言える。
日本における患者数は13.5万~14万人と推定され1)2),日常診療で遭遇する疾患であり,人種や予防歯科普及率の差によるのか,歯性病巣や病巣扁桃などの病巣感染が発症に深く関わっている。一方で,欧米でPPPというと膿疱性乾癬の掌蹠限局型をさし,病態も治療も異なる,非常に稀な乾癬の一型である。日本においてPPPの病態研究と治療の確立が必要である理由がここにあり,「掌蹠に無菌性膿疱が多発する慢性皮膚疾患」という共通点から,「異なるPPP」を診つつ,すれ違いが続いた,80年あまりの混沌に終止符を打つための扉が開いたのである。
掌蹠に水疱や膿疱が多発する疾患は複数あることから,PPPの診断には皮膚科専門医による鑑別診断が重要であることも強調されている。
コラム1
日本人と欧米人のPPPの違い
日本人のPPPと欧米人のPPPは,初期病変が大きく異なる。小水疱で始まる日本人のPPPは,病理組織学的に単球・マクロファージの浸潤を伴う表皮内水疱を呈するのに対し,小膿疱で始まる欧米人のPPPの多くは病理組織学的に角層下に好中球が浸潤する。両者では合併する骨関節症状も異なると推測され,推奨される治療も違うであろうことから,海外文献を読む際には,どちらのPPPに関する記述なのか,あるいは両者を混合した記述なのか,注意する必要がある。