直接経口抗凝固薬(DOAC)を服用中の心房細動(AF)例が脳梗塞を来した場合、DOACを変更すべきか否か―。東アジアからまた1つ、観察研究が報告された。昨年報告された香港からの報告[本欄2023-06-06]とは異なり、DOAC変更による脳梗塞再発リスクの上昇は認められなかった。ただし頭蓋内出血リスクについては要注意なようだ。国立台湾大学のShin‐Yi Lin氏らが1月31日、Journal of the American Heart Association誌で報告した。
解析対象はDOAC単剤服用下で脳梗塞を発症し、発症後もDOACを継続していた非弁膜症性AF 1979例である。台湾公的医療保険データベースから抽出した。平均年齢は77歳、53%が男性だった。CHA2DS2-VAScスコア平均値は3.9、HAS-BLEDスコアは2.7である。脳梗塞発症前服用DOACの割合は、リバーロキサバン(44.4%)が最多、次いでダビガトラン(33.2%)、アピキサバン(12.2%)、エドキサバン(10.1%)の順だった。
これら1979例を、脳梗塞発症後に同じDOACを「継続」した群(1370例)と他DOACに「変更」した群(609例)に分け、傾向スコアを用いた逆確率重み付け(IPTW)法で背景因子を均等化後、「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」(1次評価項目)の発生リスクを両群間で比較した。
・有効性
「脳梗塞・TIA」発症率はDOAC「変更」群(中央値1.09年間観察)が7.20/1000人年、「継続」群(同1.12年)が6.56/1000人年だった。「変更」群におけるIPTW法補正後ハザード比(HR)は1.07(95%信頼区間[CI]:0.87-1.30)となり、「継続」群と有意差はなかった。同様に「全血栓塞栓症」も「変更」群における補正後HRは1.13(95%CI:0.95-1.33)で「継続」群と有意差はなかった。
・安全性
「大出血」の補正後HRは「変更」群で低い傾向を認めるも、やはり有意差はなかった(補正後HR:0.95、95%CI:0.70-1.29)。逆に頭蓋内出血は「変更」群で増加傾向を示したが有意差には至らなかった(補正後HR:1.49、95%CI:0.78-2.83)。
Lin氏らはこの結果を「DOAC治療下で脳梗塞を発症したAF例では、DOAC変更は脳梗塞再発リスクを減らさない。しかし頭蓋内出血は増える可能性がある」と要約し、DOACを変更するのであれば、頭蓋内出血リスクを注意深く観察する必要があると結論している。
本研究は台湾政府機関からの資金提供を受けた。