【概要】病院を対象とする不動産投資信託「ヘルスケアリート」の活用に向けた議論がスタートした。医療界からはリートによる経営への関与を懸念する声が上がった。
国土交通省は9月26日、「病院等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン(GL)検討委員会」の初会合を開いた。同検討会は不動産投資証券を発行する投資法人であるリート(Real Estate Investment Trust)が、病院等を不動産として取得・運用する際に必要な組織体制や留意事項について議論する。昨年6月に閣議決定した日本再興戦略で、民間資金を有効に運用する視点から、ヘルスケア施設を対象とするリートの活用に向けたGL策定の方向性が示されたことを踏まえ、来年3月をメドにまとめる方針。
医療関係者の委員は松原謙二日本医師会副会長(当日は鈴木邦彦常任理事が代理出席)、石井孝宜日本病院会監事、菅間博日本医療法人協会監事の3人。
●リートは「運営にはタッチしない」
当日の会合では、事務局の国交省土地・建設産業局不動産市場整備課が、GL策定の趣旨について「病院の耐震化・資金調達の多様化」と説明した上で、リートのメリットとデメリット(別掲)を提示し、意見交換が行われた。
医療関係者からは鈴木邦彦委員が「医療機関は赤字経営が多く、投資対象としては魅力的でないのではないか」と病院をリートの対象とする効果について疑問視。「投資した結果が思わしくない場合、経営に口を出してくると予想される」と懸念を示した。これに対し、事務局や金融関係者は「賃料をもらうだけで運営にはタッチしないのがリートの特徴」と説明したが、同時に「契約賃料が払えなくなれば(運営についての)協議が必要」との考えを示した。
●投資額を左右するのは病院の運営能力
ヘルスケアリートは投資法人の仕組みを使い、施設を長期保有・管理し、賃料を投資家に分配する。「単なる大家」の形をとるが、投資である以上、当然運用益に対してはシビアにならざるをえない。過疎地など近隣相場の賃料が低い場合、投資のリターンとしては見合わないことも予想される。
また、ヘルスケアリートはホテルなどと同じ「オペレーション型」のリートとされ、施設の不動産価値に加え運営主体の“経営能力”が投資額を左右する。集患力に優れる医療機関の事業拡大に投資が集中する可能性が高く、耐震化の進んでいない病院への資金調達という本来の趣旨が損なわれる懸念も残る。
【記者の眼】赤字を抱えながら地域医療を支えている病院や過疎化などで将来的に患者の減少が見込まれる病院など資金調達が切実な状態にある施設は、リートからは投資先として魅力的に映らないだろう。医療機関の二極化を推進する施策となる可能性がある。(T)