・「倦怠感」にプライマリ・ケアで出会う頻度は高いが,医師には苦手意識がある。
・「倦怠感」の原因診断を難しく感じる理由は,①倦怠感は“low yield”な問題である,②倦怠感を主訴とする患者の「有病率」が低い,③倦怠感診療では「ノイズ」が発生しやすい,からである。
・「倦怠感」というlow yieldな問題を,よりhigh yieldな問題にアップグレードする。
▶問題を別の症候に置換できないか検討
①「倦怠感」を患者自身の言葉で置き換えてもらう,②「倦怠感」が「筋力低下」「労作時呼吸困難」「眠気」でないかを確認,③high yieldな随伴症状がないかを確認
⇒別の問題に置換できれば,その問題について鑑別する。
▶経過と先行疾患で分類
A. 急性疾患の治癒後に遷延する倦怠感
B. 明らかな疾患の先行のない急性経過の倦怠感
C. 慢性の倦怠感
・A,Bで困ることは少なく,以降のステップはCに対して適用する。
▶鑑別リストを持つ
・疾患カテゴリを意識して鑑別を整理。
⇒考慮すべきカテゴリ:慢性臓器不全,慢性炎症性疾患,悪性腫瘍,内分泌・代謝疾患,薬物・物質使用,精神疾患,睡眠障害。
▶疾患カテゴリに非特異的な病歴の聴取
①体重減少,②症状の数,③安静・睡眠での改善
▶解釈モデルの聴取
▶疾患カテゴリに特異的な診察と検査
・アルコール,抑うつ,不安,睡眠の評価には,質問票を活用する。
・身体診察は目的をもって行う。
・基本的な「ルーチン」検査でほとんどの疾患の拾い上げは可能。
・重大な身体疾患がないことを保証し,illness-orientedに対応する。
・不用意に「病名」のレッテルを貼らない。
・教条的にならず,患者の意を汲みながら付き合っていく。
・「病名」をつけるためでなく,「原因不明の強い倦怠感で苦しむ患者の一群がある」ことを知る。
「先生,なんだかこのところずっとだるいんです」と患者に言われたら,どう感じるだろうか。このシチュエーションを得意としている方は少ないと思う。「面倒なことを言い出したな……」と思う方も多いだろう。筆者もそのひとりである。
西洋のデータではあるが,「倦怠感」は,プライマリ・ケア受診理由のトップ10に入っており1),プライマリ・ケア受診患者の5~10%は(主訴とは限らないが)倦怠感を訴える2)。米国の労働者を対象とした調査では,38%が過去2週間以内に倦怠感を自覚していたという3)。
これほど頻度の高い症候だというのに,なぜ我々は「倦怠感」という訴えが苦手なのだろうか。「なぜうまくいかないのか」に答えることができれば「どうしたらうまくいくのか」はその裏返しだから,対処法は見えてくる。ここでは「倦怠感の原因診断を難しいと感じる理由」を臨床推論の視点から考えてみる。最初にまとめてしまうと,主な理由は次の3つである。これを見てすぐに腑に落ちる読者は,ここを読み飛ばしてもらってかまわない。
①倦怠感は“low yield”な問題である
②倦怠感を主訴とする患者の「有病率」が低い
③倦怠感診療では「ノイズ」が発生しやすい
臨床推論の最初のステップは「問題定義」である。「問題定義」とは,患者の訴え,診察・検査上の所見を,簡潔で検討可能な医学用語の連なりに翻訳することである。
「問題定義」により鑑別の外枠(フレーム)が決定され,そのフレーム内に鑑別疾患のリストが構築される。「問題定義」の基本的な構造は「主たるプロブレム+医学的修飾語(semantic qualifier)」の形式となる(表1)。
定義された問題により与えられるフレームが狭いほど,鑑別疾患が少なくなり,診断はしやすくなる。鑑別疾患が浮かばない場合でも狭いフレームであれば,検索により鑑別リストや対応法を容易に入手することができる(図1)。たとえば「高拍出性心不全(high- output heart failure)」と問題が定義されれば,これを検索語としてUpToDate®やPubMed®に入力することで,瞬時に良質なレビューが発見できる。
「狭いフレームを提供する問題定義」は疾患特異性が高いということであり,このような問題定義を“high yield”であると言う(yieldとは「産み出す」というような意味)。逆に,「提供するフレームが広い問題定義」では鑑別疾患が膨大な数に上り,一つひとつ検討することが難しくなる。このような問題定義を“low yield”であると言う。
さて,「倦怠感」という問題のyieldはどうだろうか。倦怠感をきたしうる疾患を列挙してみてほしい。きわめて多数の疾患があることは容易にわかるだろう。極論すれば,あらゆる疾患が倦怠感を引き起こしうる。つまり,「倦怠感」という問題定義はきわめて“low yield”なのである。
「倦怠感」を入り口に疾患を探すことは,干し草の中から針を探し出すようなものである。それ自体が難しい行為だし,一定の診察,検査を行って異常がなかったとしても,そこには「可能性は否定できない」疾患が多数残ることになり,「何かを見逃しているのでは」という感覚が捨てられない。これが,倦怠感に苦手意識をいだく理由の1つ目である。