アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)は,増悪と軽快を繰り返す,かゆみを伴った湿疹を主病変とする疾患である。「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」によると,有病率は乳児6~32%,幼児5~27%,学童5~15%,大学生5~9%となっており1),長期的には加齢とともに治癒傾向にある。
また,東京都が実施している3歳児調査におけるアレルギー性疾患の有症率の変化をみてみると,平成11年の16.6%に対して令和元年には11.3%となっており,この20年間で低下傾向を認める。この間に,ADと食物アレルギー(food allergy:FA)発症との関連性が指摘されるようになったことや,保湿剤によるAD発症予防効果が注目されたことで,医療者・保護者ともに乳幼児の湿疹に対する関心が強くなったことが要因かもしれない。
一方,乳幼児期に発症したADの7~8割が成人までに寛解するものの,学童期以降まで持ち越してしまった場合は寛解率が下がることが報告されている。そのため,乳幼児期にAD治療をしっかり行い,寛解を維持しておくことが,成人AD患者の「生きづらさ」を解消することにつながると思われる。
乳児期ADはアレルギーマーチの入口である。乳児期の“湿疹の向こう側”には,「アレルギーマーチ」とその後に「健やかな発達」があるという視点を持つことが必要である。
治療については,1999年のタクロリムス(プロトピックⓇ)軟膏発売以来,長らく新薬が登場していなかったが,2018年以降新規薬剤が次々と承認された。2021年3月に2歳以上の小児に対してデルゴシチニブ(コレクチムⓇ)軟膏が承認され,2023年1月に生後6カ月以上の小児に適応が拡大された。2021年9月に2歳以上の小児に対してジファミラスト(モイゼルトⓇ)軟膏が承認され,2023年12月に生後3カ月以上の小児に適応が拡大された。これにより,これまでステロイドに頼りきりだった外用療法にも選択肢が増えた。
また,既存治療では寛解させることができなかった重症例に対する全身療法も選択肢が増えてきた。特に小児科領域では,2023年9月にIL-4/IL-13受容体拮抗薬であるデュピルマブ(デュピクセントⓇ)が生後6カ月以上の小児に適応が追加されたことは,大きな転換点と言える。
これらの治療を組み合わせることによって,大きな副作用を経験することなく,日常生活にあまり支障がない状態を期待できると考えられ,AD治療は新時代に突入したと言えるだろう。
日本の医療制度では,ほぼすべての乳児が1カ月健診や2カ月のワクチンデビューで小児科医の診察を受けることになる。それをきっかけに,かかりつけ小児科医となる利点は,湿疹がある児を自ら探しに行く必要はなく,湿疹を主訴に来院するのを待つ必要もなく,ワクチン接種時に皮膚も診察すればよい,ということであろう。すなわち,かかりつけ小児科医こそが,アレルギーマーチの自然史に介入し,その後の健やかな発達を手助けするキーパーソンである。クリニックでプライマリ・ケアを担う小児科専門医・アレルギー専門医の立場から,小児ADを考察する。