乳糖(ラクトース)とは,母乳や牛乳に含まれる二糖類である。乳糖不耐症とは,乳糖をグルコースとガラクトースに分解する乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が低下することで,乳糖を消化吸収できず,下痢,腹痛,腹部膨満,体重増加不良などを呈する疾患である。ラクターゼの活性低下の原因は,先天性の酵素欠損と,感染性腸炎・炎症性腸疾患・セリアック病・薬剤などの粘膜損傷による二次性の酵素活性低下が挙げられる。
主な症状は,著しい水様下痢,腹痛,腹鳴,腹部膨満,嘔吐,体重増加不良である。酸っぱい便臭がする下痢が特徴的とされる。また,浸透圧性下痢であるため,絶飲食にすると下痢は改善する。診断のための便中還元糖試験は,クリニテストⓇが利用されていたが,2012年に製造中止となっている。
先天性乳糖不耐症は,ラクターゼの構造遺伝子であるLCT遺伝子の変異によって引き起こされる1)。生後まもなく乳糖を含む母乳やミルクを摂取したあとに,著しい下痢を生じる。症状の発症時期は,残存ラクターゼ活性によって異なるが,加齢によりラクターゼ活性は低下するため,少量の乳糖摂取による著しい下痢や腹鳴,腹部膨満を呈する。
乳糖を除去したミルクに変更することで症状が改善されれば,本疾患が疑われる。診断としては,便の生化学的検査(pH<5.5,便中Na+<70mEq/L)や経口乳糖負荷試験(腹部症状を呈し,血糖値の上昇が20mg/dL未満),水素呼気試験(呼気中水素ガス濃度が20ppm以上に上昇)がある。
また,鑑別すべき疾患として,先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症が挙げられる。この疾患は,グルコースとガラクトース,およびそれらで構成される分子を正常に吸収することができず,さらにナトリウムの吸収も悪いために,生後早期から激しい浸透圧性下痢をきたす2)。先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症を除外するため,経口ブドウ糖負荷試験でグルコース吸収が正常であることを確認することが望ましい。
乳幼児時期に感染性腸炎に罹患することで,発症することが多い。二次的なラクターゼ活性低下は適切な対応により改善するため,回復後は以前のように乳糖摂取が可能となる。診断的治療目的に,乳糖を除去することで改善が得られれば,二次性乳糖不耐症と臨床的に診断される。
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