第二中間宿主の淡水ガニ(モクズガニ,サワガニ)や,待機宿主のイノシシ,シカを生食や加熱不十分で摂取することにより感染する人獣共通感染症である。虫体の移動に伴い腹痛,胸痛,咳嗽,発熱など様々な症状を呈し,ほとんどの症例で末梢血好酸球の増加を認める。わが国では日本人症例は減少しているが,アジア系外国人の感染報告が続いている1)。成虫の寿命が10年以上になることも稀ではない。
わが国でヒトに感染するのは宮崎肺吸虫とウェステルマン肺吸虫の2種である。第二中間宿主は,淡水産のカニ(宮崎肺吸虫とウェステルマン肺吸虫の2倍体はサワガニ,ウェステルマン肺吸虫の3倍体はモクズガニ)で,ここでメタセルカリアに成長する。待機宿主としては,イノシシやシカが知られており,脱囊メタセルカリアが筋肉内に長く残る。
わが国で発生する肺吸虫症の正確な患者数は不明であるが,年間50~60例前後の発生が推測される。九州や関東,関西の大都市圏での発症が多く,いずれも在日アジア人(タイ,中国,韓国,カンボジアなど)の増加が目立つ。原因虫種は約9割がウェステルマン肺吸虫で,在日アジア人が自宅で,感染食材を用いた郷土料理を摂取することで発症することが多い。原因食品に関しては,淡水産のカニが過半数を占め,ついでイノシシ肉が多く,汚染された調理器具からの感染もありえる。
ヒトに摂取されたメタセルカリアは小腸で脱囊し,腸管壁を破って腹腔内に脱出し,腹壁の筋肉に移行し1週間ほど発育する。その後,再び腹腔内に戻り,横隔膜を抜け胸腔内に入り,胸膜を破り肺実質に達して成熟し産卵する。肺実質に到達するのに3~4週間かかり,産卵を開始するにはさらに4~8週間かかる。虫体の移動に伴った症状が出現する傾向にあり,腹痛で発症し,その後,発熱,胸痛,咳嗽,血痰などの症状を呈することが多い。脳,肝臓,皮下に迷入し痙攣,麻痺,失語,視覚障害,アレルギー性皮膚反応など多彩な症状を呈することもある。
病歴,食歴,渡航歴から本疾患を疑うことが診断の第一歩となる。ほとんどの症例で末梢血好酸球や血清総IgEが増加するので,これらを見落とさないことが肝要である。
画像診断としては全身のCTが有用であり,腹部に関しては皮下結節,筋肥厚,大網肥厚,腹水など,胸部に関しては肺多発結節,肺索状影,空洞,胸水,気胸などの所見が認められることが多い1)。虫卵の検出率は低く,便中で検出されることは稀で,胸水や気管支肺洗浄液で見つかることがある。
現在,肺吸虫症の診断に最も用いられているのは,酵素抗体法を利用した抗体検査である。陰性であったとしても,肺吸虫症を強く疑うときは10~14日後に再検査をすることが望ましい。
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