今回は,前回に引き続き,移行帯と回転に関して,より実践的な話ができればと思っています。
通常,胸部誘導のQRS波形は,V1では「rS型」(r≪S)から始まり,徐々にr/R波が増高していきます。そして,左側方の誘導V5,V6では,「(q)Rs型」(R≫s)となるのが一般的です。そうなると当然,途中でR/S波の“下剋上”が生じるわけですが,正常では,V3ないしV4前後で起こることが多いのでした。
胸部誘導のQRS波で,上向きR波の高さと下向きS波の深さがちょうど釣り合う箇所を移行帯(QRS transitional zone)と言いました。この移行帯が正常範囲からズレた状態に対し,心電図の世界では回転(rotation)という表現がなされます。
世界標準のミネソタ・コード通りに診断すると,かなり厳しめの判定となることも前回学びましたね。実際の臨床では,多少“ゆとり”を持って,心広めのスタンスで接するほうが現実的でよいかと思います。ここでは一例として,ボク自身が普段している考え方をご紹介しましょう。移行帯がV3より手前(右方)なら,「反時計方向回転」(counterclockwise rotation:CCWR)と呼び,移行帯が“早過ぎる”(early transition)と考えるのはどうでしょう。
逆に,移行帯がV4よりも先(左方)の場合は「時計方向回転」(clockwise rotation:CWR)と言います。典型的には,終盤のV5かV6で初めて“R>S”が達成される状況です。これだと,移り変わりが“遅過ぎる”(late transition)と評価することになるわけです。
なお,これらの話は,すべてCT画像と同じ水平断(面)上での話であったことも思い出して下さいね。