令和5年簡易生命表が公表された1)。これは2023年のもので、平均寿命は男性が2022年より0.04年長くなって81.09歳に、女性が0.05年長くなって87.14歳となり、いずれの年齢層でも平均余命は延伸モードに戻っている。しかし、延長幅はわずかで、コロナ禍前に戻るほどの回復ではなかった。
平均寿命という指標は、見た目のわかりやすさに反して、正確な理解はむずかしい。よく「0歳における平均余命のこと」と説明されるが、平均余命は「死亡状況が今後変化しないと仮定したときのその年齢の余命の期待値」である。結局、「0歳児がこれから何年生きられるか」という予測値のような扱いで理解されており、厚生労働省が平均寿命の説明として用いている、「すべての年齢の死亡状況を集約した保健福祉水準を総合的に示す指標」2)ときちんと結びついていない。
寿命という表現を使っているが、この指標を時間縦断型のものと考えるのは間違っているし、予測に使うことは生命表の趣旨から外れている。新生命表は、2023年の年齢別の死亡率のみから計算され、それ以前のデータは一切使用しない(当然、それ以後のデータはまだない)。これは横断的な指標であり、「日本の2023年の保健福祉水準を総合的に示す指標」とはそういう意味である。平均寿命が81.09歳ということは、10万人の観察人口の生存時間プールの総計は810万9000人年、ここで死亡が10万件(全員死亡するまで観察するため観察人員=死亡件数)なので、死亡率は10万/810万9000=0.01226(年間)となる。言うまでもないが、観察人口10万は分子分母にあって相殺されるため、任意に設定できる。平均寿命81.09歳と逆数にあたる年間死亡率0.01226は同値で、死亡率のほうが厚労省の言う趣旨がわかりやすいかもしれない。
私は1960年生まれの男性で、誕生日が来ると64歳になる。昭和35年簡易生命表によると、その年の平均寿命は65.37歳である。しかし、新生命表の63歳の平均余命は21.15歳で大きい乖離がある。同じように、昨年生まれた男児は、平均的に81.09歳よりかなり長く生きることになろう。自分自身のこれまでの死亡率は、毎年の生命表で見ることができる。2023年の63歳男性の年間死亡率は0.00867(年間生存率は0.99133)、2022年の62歳男性の死亡率は0.00787(生存率は0.99213)と、過去にさかのぼって、年間生存率をかけていくと、自分と同性、同年生まれの2023年での生存率が計算できる。1960年生まれ男性の現時点の生存率は85%程度で、1960年当時の平均寿命65.37歳とも平仄が合わないが、新生命表の生存率90%よりはかなり低い。
新生命表では、男女とも各年齢層でも死亡率は低下しているので、コロナ禍による寿命の底は脱したものと思われる。しかし、高齢者を中心とした死亡率の高止まりは依然観察され、コロナの影響を完全に脱するのは、まだ先のことになるようだ。
【文献】
1)厚生労働省:令和5年簡易生命表の概況.(2024年7月26日)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/index.html
2)厚生労働省:令和5年簡易生命表の概況,簡易生命表について.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/dl/life23-01.pdf
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[平均余命][性・年齢別死亡率][コロナ禍]