急性乳様突起炎は,急性中耳炎による細菌感染が骨に囲まれた中耳腔内(鼓室,上鼓室,乳突腔)にとどまらず,骨壁が破綻し周囲に広がった状態である。進展方向により,耳後部骨膜下膿瘍だけでなく,重篤な頭蓋内合併症を生じることもあり,迅速な対応が必要となる。
急性中耳炎と同様に,鼻副鼻腔炎,上気道炎症状が先行し,発熱,耳痛,耳漏などが生じていることが多いが,乳幼児では単に機嫌が悪いだけのこともある。急性乳様突起炎の典型例では,乳突腔外側の骨が破綻,骨膜下膿瘍を生じ,耳後部発赤,耳介聳立などの所見を示す。乳突腔内側の骨が破綻した場合,細菌感染が頭蓋内に進展し,髄膜炎,硬膜外膿瘍,S状静脈洞血栓症などを合併し,重篤な神経症状を呈することがあり注意を要する。外側進展する典型例は乳幼児に好発するが,内側進展から頭蓋内へ炎症が波及する症例は,急性中耳炎の好発年齢よりもやや高年齢の学童期に生じやすい1)。
急性中耳炎として説明のつかない耳後部発赤,耳介聳立などの所見や,意識混濁などの神経症状,全身状態が不良の場合,乳様突起炎が生じていないかを見るため,側頭骨CTを行う。側頭骨CTでは骨条件で骨皮質の破綻の有無,部位を確認する。その際,反対側の所見を参照するとわかりやすい。頭蓋内合併症を疑う症状がある場合は造影CTも行う。造影CTでは硬膜の造影効果,頭蓋内の膿瘍形成の有無を見るとともに,S状静脈洞の血流障害がないかどうかを確認する。S状静脈洞は左右の大きさもチェックし,径の大きい優位側に生じた乳様突起炎の場合は,さらに慎重に対応する。
起炎菌の同定は抗菌薬の選択に重要であるため,耳漏がみられる場合や,鼓膜切開,膿瘍の穿刺を行った場合は,必ず細菌培養検査を行う。また,鼻咽腔からの細菌培養検査も起炎菌同定に役立つ。急性中耳炎と同様に,肺炎球菌,インフルエンザ菌が起炎菌として多く,起炎菌が同定されるまでの初期治療ではこれらの細菌をターゲットとする。
治療は,CTで側頭骨外側の皮質骨が破綻している場合と,内側の皮質骨が破綻している場合とで方針を変える必要がある。外側進展の場合は,抗菌薬単独投与群,抗菌薬に鼓膜切開術もしくはチューブ留置術を行った保存的手術群,耳後部切開にて乳突削開術を行った侵襲的手術群で治癒率に差はないとの報告や2),抗菌薬投与,鼓膜切開に加え,耳後部膿瘍の穿刺吸引を行うだけで十分治癒させることが可能であるとする報告もある3)。我々も外側進展の骨膜下膿瘍の初期治療では抗菌薬投与を行い,必要に応じて鼓膜切開術,膿瘍の穿刺吸引を行っている。
初期治療で全身状態の改善がみられない場合,頭蓋内合併症が生じている場合,頭蓋内合併症がなくとも内側皮質骨の破綻がみられ頭蓋内進展が予測される場合は,緊急で乳突洞開放術を行う。特にS状静脈洞の血流障害が生じると,頭蓋内圧亢進から,不可逆的な視力障害などを生じることがあり,迅速な対応が必要となる1)。
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