【概要】B型肝炎ワクチンが早ければ2016年度にも定期接種化される見込みとなった。母子感染以外の感染の状況が厚労省研究班により明らかになったことが決め手となった。
厚科審予防接種・ワクチン分科会は15日、厚労省のB型肝炎ワクチン定期接種化案(別掲)を了承した。厚労省は今後、ワクチンの供給量や財源捻出など、定期接種化に向けた実務的検討に入る。
B型肝炎ワクチンに関しては、世界保健機関が1992年に世界で接種を実施するよう勧告し、2013年までに183カ国が乳幼児の予防接種を導入。日本では12年、同分科会の前身である厚科審予防接種部会が「広く接種を促進することが望ましい」と提言。13年の改正予防接種法では附帯決議で、定期接種化の結論を得るよう努めることとしていた。
●小児のHBs抗原陽性率は0.025%
15日の分科会では、厚労省研究班(班長=須磨崎亮筑波大病院副院長)が、小児におけるB型肝炎ウイルス(HBV)感染の大規模疫学調査の結果を報告した。健康小児から採血する機会は限られるため、対象は「小児生活習慣病健診の残余血清(岩手県・茨城県)」「国立感染症研究所の血清銀行」「病院受診者の残余血清(大都市・北海道・九州地方)」「名古屋市大の小児患者のHBV検査成績」の計1万4823人。その結果、HBs抗原陽性率は0.025%、過去の感染を示すHBc抗体陽性率は0.49%だった。
さらに、全国の血液センターの初回献血者の陽性率と感染経路を出生年別に調査したところ、母子感染防止事業が開始した1986年以降に生まれた献血者は、それ以前に生まれた献血者に比べて母子感染例が激減し、母子感染よりも体液による感染など母子感染以外(水平感染)の方が多いことが判明。17~21歳の陽性率は小児と同様の傾向だった。
この結果を受け研究班では、1986年以降、若年層キャリアの多くは水平感染によるものと推計し、小児においてHBV水平感染対策を進める必要があると提言した。
研究班はさらに、遺伝子型が異なるウイルスに対するB型肝炎ワクチンの効果を検討。日本で使用可能なワクチンにはビームゲン(遺伝子型C型)とヘプタバックス(遺伝子型A型)があるが、C型は日本での使用実績が乏しいことから、その感染防御効果を実験した。その結果、ビームゲンによって得られた一定濃度の抗体は遺伝子型AのHBVに対しても予防効果が示され、ビームゲン、ヘプタバックスいずれの接種でも、異なる遺伝子型のHBVに対する予防効果があることを報告した。
研究班の調査を受け厚労省は、「全出生者を対象に予防接種を実施することで、B型肝炎による社会的疾病負荷の軽減につながる」と判断した。
定期接種化の方針について、分科会を傍聴していた日本肝臓病患者団体協議会の代表者は、「子どもたちのために速やかに予算を確保して」と歓迎。全国B型肝炎訴訟原告団の代表者は「B型肝炎は日常生活では感染しないので、感染者への偏見を生まない広報を」と要請した。
【記者の眼】B型肝炎キャリアの妊婦から生まれた乳児にワクチンと免疫グロブリンを投与する母子感染防止事業の成果に加えて、ワクチン定期接種化により将来の肝臓病減少が期待できる。定期接種化に必要な財源は170億~180億円という。政府内で前向きな検討を求めたい。(N)