がん治療用のウイルス製剤「テセルパツレブ」が、今年6月、脳腫瘍に世界初承認された。治療歴のある悪性神経膠腫(グリオーマ)が適応症だ。がんのウイルス療法の承認自体も国内初となる。米国でこの抗がんウイルスを開発し、日本での実用化を目指してきた東大医科研先端医療研究センター教授の藤堂具紀氏に、がんのウイルス療法とその可能性を聞いた。
がん細胞でのみ増えるG47Δ(デルタ)というウイルスを腫瘍に注射することで、がん細胞を破壊させる、新しい概念の治療法です。口唇ヘルペスを起こす単純ヘルペスウイルスI型の3つの遺伝子を、がん細胞のみ攻撃するように改変して作製しました。
G47Δは、2段階の機序を介して、抗がん作用を発揮します。1段階目は、腫瘍にG47Δを注入してがん細胞に感染させると、がん細胞が直接破壊されることです。がん細胞内で増えたウイルスは、周囲のがん細胞にも感染しそれらの細胞も破壊していきます。G47Δは一定期間増えた後、免疫に排除されますが、繰り返し投与が可能です。
そして、2段階目は、抗がん免疫が引き起こされることで、投与したところから離れたところにあるがん細胞も攻撃するワクチン効果です。このワクチン効果が、G 47Δの特徴であり注目すべきポイントです。抗がん免疫が生じるのは、がん細胞で増えたG47Δを免疫が排除する過程で、がん細胞が免疫に非自己として認識され攻撃されるようになるからです。
G47Δは、がんの再発・転移のもととなり根治を阻む「がん幹細胞」も効率よく破壊することが分かっています。