糖尿病や肥満のある人に対するスティグマ(社会的偏見による差別・烙印)が問題になっている。スティグマをなくすためにはどうしたらよいのか。糖尿病専門医であり1型糖尿病の当時者としてスティグマの解消に取り組む、国立国際医療研究センター糖尿病内分泌代謝科の小谷紀子氏に聞いた。
日本では、1996年に成人病が「生活習慣病」になりました。生活習慣を改善すればよくなる病気があるというのは、当時は画期的だったと思いますが、糖尿病などの発症には遺伝要因、外部環境要因も複雑に関与しています。
当時も公衆衛生審議会の「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)」では、「『病気になったのは個人の責任』といった疾患や患者に対する差別や偏見が生まれるおそれがある」と指摘しています。WHOは同じ疾患群を非感染性疾患と呼んでいますが、日本では生活習慣病としたために、懸念されたことが起こってしまいました。
もう1つ、スティグマを考える上で重要なのが行動免疫システムです。我々の体には病原菌を排除する免疫システムがありますが、行動面にもそれが本能として備わっています。集団を守るために、病原菌に対して嫌悪感や回避行動が生じ、集団規範を維持するために、偽陽性を許容する行動が生じます。その代償として偏見や差別が生まれます。ハンセン病、結核、HIVなどがその対象になった過去がありますが、ここに糖尿病や肥満が含まれてしまったと考えられます。我々医療者の責任も大きいのではないでしょうか。