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中南米で感染拡大しているオロプーシェ熱[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(26)]

No.5236 (2024年08月31日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-08-28

最終更新日: 2024-08-27

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●オロプーシェ熱とは1)〜3)

オロプーシェ熱は,オロプーシェウイルス(Oropouche virus)に感染することにより発症する熱性疾患で,2024年7月時点で,中南米で感染拡大しており,中南米から欧州への輸入例も報告されています。なお,日本における感染症法における届出対象疾病ではありませんが,感染拡大を受けて7月12日に厚生労働省から「オロプーシェ熱に関する情報提供及び協力依頼等について」の事務連絡が発出されました。

オロプーシェウイルスは節足動物媒介性ウイルスで,主な媒介昆虫はヌカカ(Culicoides paraensis)です。本ウイルスは,1955年にトリニダード・トバゴの発熱患者から分離・同定されて以降,中南米全域でこれまでに50万人以上が感染したと推定されています。2024年にはキューバでも発生し,イタリアやスペインでもキューバからの輸入症例が報告されました。これらは欧州で初めてのオロプーシェウイルスによる輸入症例でした。

オロプーシェ熱の一般的な症状は,発熱,頭痛,倦怠感,関節痛,筋肉痛で,多くの場合2~7日間で自然治癒します。潜伏期間は,4~8日程度(最大12日)と報告されており,稀に髄膜炎や脳炎を発症します。約60%の患者が寛解後2~10日(稀に1カ月)以内に再度同様の症状を示しますが,その原因は不明です。ほとんどの患者は後遺症を残すことなく回復しますが,一部の患者では持続的な筋力低下が2〜4週間続くことが報告されています。

●オロプーシェ熱は,中南米のデング熱の鑑別疾患になる1)

オロプーシェ熱は,前述の通り非特異的な症状を呈する蚊媒介感染症であるため,中南米では,ジカウイルス感染症やチクングニア熱に加えて,デング熱の重要な鑑別疾患となります。血清あるいは髄液からのウイルス分離,RT-PCRによるウイルスゲノムの検出,オロプーシェウイルス特異的IgMの検出あるいはペア血清による中和抗体価の上昇を確認することにより,実験室診断を行います。2024年7月時点で,特異的なワクチンや抗ウイルス薬はないため,治療は対症療法,予防は防蚊対策となります。

●ブラジルにおけるオロプーシェ熱の感染拡大と母子感染4)

ブラジル保健省は2024年7月初旬に疫学速報を発表し,年初から約6900人のオロプーシェ熱の感染例の増加を報告しました。ほとんどの症例は北部のアマゾナス州とロンドニア州に集中しており,それぞれ約3200例,約1700例を超えています。さらに,母子感染の可能性のある事例も報告しました。ペルナンブーコ州の28歳の妊婦がオロプーシェ熱の症状を認め,妊娠30週で流産した際に調べたところ,胎盤組織と胎児臓器からオロプーシェウイルスが検出されました。現時点ではオロプーシェ熱の母子感染に関する情報は限られていますが,今後注意が必要になるかもしれません。

【文献】

1)国立感染症研究所:オロプーシェ熱とは. (2024年7月25日アクセス)

2)厚生労働省:オロプーシェ熱に関する情報提供及び協力依頼等について. (2024年7月25日アクセス)

3)ECDC:Communicable Disease Threats Report. (2024年7月25日アクセス)

4)WHO PAHO:Epidemiological Alert Oropouche in the Region of the Americas: vertical transmission event under investigation in Brazil - 17 July 2024. (2024年7月25日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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