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【識者の眼】「傾聴の三原則」西 智弘

No.5240 (2024年09月28日発行) P.65

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2024-09-09

最終更新日: 2024-09-09

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「患者様の思いを傾聴し、寄り添った医療を提供いたします」

学生や研修中の医療者から、こういった目標設定が立てられることをしばしば耳にする。しかし、それに対して

「そもそも、あなたが言う『傾聴』とはどういうこと?」

「あなたが患者さんに対してどういうことをしたら、それは傾聴をした、ということになるの?」

と問いかける指導者は多くない。しかしそれでは、「本当にケアにつながる傾聴」と「傾聴という名の聞いているフリ」が混在してしまってもおかしくない。

そもそも、「傾聴」とは何か。

米国の臨床心理学者で、カウンセリングの礎を築いたカール・ロジャーズは、傾聴時に聴き手が意識すべき3つの原則を示している。

・共感的理解

共感的理解とは、相手の気持ちや考え方を相手の立場で共感・理解しようとすること。「私も似たような経験をしたことがあるから、あなたのつらさはわかります」というのは共感的理解ではない。自分の経験や価値観はいったん置いておいて、相手の世界観に立って、相手が見て感じている世界を理解する。

・無条件の肯定的関心

無条件の肯定的関心とは、相手をありのまま受け入れ、善悪や好き嫌いの判断をせずに聴くこと。自分の価値観や信念で相手をジャッジせず、「この人はどうしてこんな考えに至ったのだろう」と相手の世界観に関心をもつ。

・自己一致

自己一致とは、相手だけではなく「聴き手に対しても」、聴き手自身のことをよく知り、良いところも悪いところも含めて向き合い、聴き手の感情とその表現が一致している状態で相手の前に居続けられること。

この3つの原則を意識しながら研修ができている学び手、それを適切に評価・指導できている指導者が医療の現場にどれくらいいるのだろうか。

もう余命が数時間と思われる患者さんが、

「最後にどうしても家に帰りたい」

とあなたに告げたとき、

「でも、この状態で家に帰るのは危ないですよ」

「家に帰りたいのですね、ぜひお力になりますよ」

どちらの答え方も「傾聴」ではない。「どうして今になって突然、この方は帰りたくなってしまったのだろう(無条件の肯定的関心)。そして、どうしてそれを、ほかでもない『私』に言ってくれたのだろう(共感的理解)」から始まり、「それを聞いた自分は、『帰せない』と思っている。でも力にはなりたい(自己一致)」と内省し、そこで初めて、

「今日、あなたが『家に帰りたい』と思ったわけを、もう少し聞かせて頂けますか」

と問いかけていくのが、傾聴の入口になっていくのだ。


監修:福島沙紀(臨床心理士・公認心理師)

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[共感的理解][無条件の肯定的関心][自己一致]

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