ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)やアンジオテンシン・ネプリライシン阻害薬(ARNi)、SGLT2阻害薬はいずれも、腎保護作用のある薬剤だと認識されている。しかし心不全(HF)例を対象にしたランダム化比較試験(RCT)データを解析したところ、薬剤によっては腎保護作用を認めず、逆にプラセボに比べ腎イベントリスクが上昇している薬剤も見られた。ジーランド大学(デンマーク)のJawad H. Butt氏らが9月1日、Circulation誌で報告した。
解析対象になったのは、HF予後改善作用検討RCT参加例中、試験開始時に血性クレアチニン値が明らかだった2万8690例である。EMPHASIS-HF、TOPCAT米国解析、PARADIGM-HF、PARAGON-HF、DAPA-HF、DELIVERの6試験から、患者レベルデータの提供を受けた。
これら2万8690例を対象に、同一の腎イベントを評価項目として、各RCTにおける腎保護作用を評価した。「腎イベント」の定義は「30日間以上持続する推算糸球体濾過率(eGFR)低下(基準値は後述)」「末期腎不全」「腎死」のいずれかである。
・EMPHASIS-HF(HFrEF対象、エプレレノン vs. プラセボ、観察期間中央値:21カ月)
「持続的eGFR低下」の基準を「≧40%」とすると、エプレレノン群の「腎イベント」リスクはプラセボ群に比べ有意に高かった(ハザード比[HR]:1.98、95%CI:1.20-3.26)。ただしeGFR低下幅基準を厳しくして「≧50%」に引き上げると、両群間の有意差は消失した。
・TOPCAT米国解析(HFmr/pEF対象、スピロノラクトン vs. プラセボ、観察期間平均:2.9年)
EMPHASIS-HF同様、「持続的eGFR低下」の基準を「≧40%」とすると、スピロノラクトン群「腎イベント」の対プラセボ群HRは1.95(同:1.43-2.65)の有意高値だったが、幅基準「≧50%」であれば有意差は消失した。
・PARADIGM-HF(HFrEF対象、ARNi vs. ACE阻害薬、観察期間中央値:27カ月)
ARNiは「持続的eGFR低下」基準値の高低にかかわらず、ACE阻害薬と「腎イベント」リスクに有意差は認めなかった。
・PARAGON-HF(HFmr/pEF対象、ARNi vs. ARB、観察期間中央値:35カ月)
一方、ARBと比較するとARNiでは、「持続的eGFR低下」基準値「≧40%」「≧50%」のいずれにおいても、「腎イベント」リスクが有意に低かった。HRは順に0.60(95%CI:0.47-0.76)と0.60(95%CI:0.40-0.92)である。
・DAPA-HF(HFrEF対象、ダパグリフロジン vs. プラセボ、観察期間中央値:18.2カ月)
「腎保護作用」の印象が強いSGLT2阻害薬だが、「持続的eGFR低下」基準値の高低を問わず、ダパグリフロジン群の「腎イベント」リスクは、プラセボ群と有意差を認めなかった。
・DELIVER(HFmr/pEF対象、ダパグリフロジン vs. プラセボ、観察期間中央値:2.3年)
こちらもDAPA-HF試験同様、ダパグリフロジン群の「腎イベント」リスクは「持続的eGFR低下」基準値の高低を問わず。プラセボ群と有意差はなかった。
Butt氏らは、MRAとSGLT2阻害薬は開始当初にeGFRが一過性に低下し、その後回復する傾向があるため、腎イベントとしての「持続的eGFR低下」の基準値は低下幅を大きく取るべきだと主張している。
本解析に対する外部資金提供の有無は不明である。参照したRCTは国立心肺血液研究所が実施したTOPCATを除き、各薬剤の製造会社からの資金で実施された。