トリグリセライド(TG)高値は心血管系(CV)リスクだと認識されているが[Lawler PR, et al. 2020]、フィブラートを用いたTG低下療法はCVイベントを抑制しない[Rodriguez-Gutierrez R, et al. 2023]。しかしこれはフィブラートに限った話ではなくPCSK9阻害薬を用いたTG低下でも同じようだ。一方、生活習慣改善によるTG低下にはCV保護作用があるかもしれない。大規模ランダム化比較試験"ODYSSEY OUTCOMES"の追加解析の結果として、ソローカ大学(イスラエル)のDoron Zahger氏らが9月10日、J Am Coll Cardiol誌で報告した。
ODYSSEY OUTCOMES試験の対象は、直近1年間に急性冠症候群(ACS)の既往があり、忍容最大用量のスタチン服用下で脂質異常(LDL-C≧70mg/dLなど)を認めた1万8924例である。なお「TG>400mg/dL」例は除外されている。PCSK9阻害薬群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で2.8年間(中央値)観察された。
今回の解析では、「試験開始時TG値の高低」「試験開始後のTG低下幅」それぞれが「MACE発生リスク」に及ぼす影響が検討された。MACEの内訳は「冠動脈疾患死・心筋梗塞・入院を要する不安定狭心症・脳梗塞」である。
・「試験開始時TG値」とMACEリスク
試験開始時TG値「≧150」mg/dL例の「MACE発生率」はPCSK9阻害薬群、プラセボ群とも、「<150」群に比べ高値傾向を認めた(PCSK9阻害薬群:10.3 vs. 9.1%、プラセボ群:12.4 vs. 10.2%)。しかし諸因子補正後のハザード比(HR)で比較すると有意差とはならなかった(PCSK9阻害薬群:1.04、95%CI:0.90-1.20、プラセボ群:1.12、0.99-1.28)。
一方TG値を連続変数として扱うと、10mg/dLの高値に従い、若干だがMACEリスクは有意に上昇していた(HRはPCSK9阻害薬群:1.008、1.003-1.013、プラセボ群:1.007、1.001-1.014)。
・「試験開始後のTG低下幅」とMACEリスク
「試験開始後のTG低下幅」とMACEリスクの関係は、PCSK9阻害薬群とプラセボ群で異なっていた。すなわち、プラセボ群では試験開始4カ月後TG値「10mg/dL」低値に伴い、その後のMACEリスクは若干ながらも有意に低下していた(HR:0.988、95%CI:0.982-0.995)。一方PCSK9阻害薬群では試験開始4カ月後TG値「10mg/dL」低値に伴うMACEリスクの有意低下は認められなかった(HR:0.999、0.987-1.010)。
プラセボ群で「TG低下」と「MACEリスク低下」が相関した理由としてZahger氏らは、生活習慣改善とスタチン服用のアドヒアランスが良かったためではないかと考察。一方、PCSK9阻害薬群でそのような相関を認めなかったのは、LDL-CとアポB蛋白濃度が十分に低下した場合、TG低下によるCVリスク減少作用は期待できないのではないか、としている。
本解析はRegeneron Pharmaceuticals, Incから資金提供を受けて実施された。また解析対象となったODYSSEY OUTCOMES試験は、同社とSanofiから資金提供を受けた。