国が提唱している「地域包括ケアシステム」とは,要介護状態になっても住み慣れた地域で暮らせるように,医療・介護・介護予防・住まい・生活支援を整えようとするものです。具体的には,自宅から30分以内の距離に必要なサービスがそろっているという体制です。
日本の要支援・要介護者は2022年の時点で690万人であり,1年で8万人増えています。2040年には要介護者が1000万人に近づくことが予想されています。また,現在85歳以上の方が600万人を超えていますが,2040年には1000万人を超えます。日本は,高齢者の割合が急速に上昇し,要介護者が急速に増えています。
このまま,地域に専門クリニックばかりが増えていくような状況では,地域医療は守れないのは目に見えています。地域は腰が痛い,膝が痛い高齢者であふれかえり,毎日違う病院に薬をもらいに行き,いざ転倒して頭を打ったら,自分で探して遠い病院に行かないといけません。認知症も進み,生活もままならなくなり,病気も進行してから見つかります。そうならないように,日本全国に総合診療クリニックが必要です。
自分の健康はそこに行けば何とかしてくれる,そんな総合診療クリニックが必要不可欠です。それが,本当の地域包括ケアシステムです。主治医は1人だけで,その先生が自分の健康を責任持って診てくれるのです。これから開業する先生方には,ぜひ間口の広い総合診療クリニックを開業してほしいと思います。
国には,開業サポートをお願いしたいです。大学などの教育機関には,ぜひ開業ありきのプログラムをつくり,開業をサポートし,開業後も連携をとっていただきたいです。自治体には,開業の際にかかる費用をサポートしていただき,総合診療クリニックを誘致していただきたいです。そうすれば,国民は安心して慣れ親しんだ地元で暮らすことができます。
「どこに行けばいいかわからない」「クリニックで診療を断られた」などという高齢者の声が将来増えないようにしないといけません。地域包括ケアシステムの中心には患者さんがいて,その近くに主治医がいます。患者さんの周りに責任を持たない医師が数人いても,意味がないのです。総合診療クリニックが自宅の近くにあれば,患者さんはわざわざ複数の病院を受診する必要がないわけです。「いつでも,何でも,誰でもまず診る」クリニックが全国に拡がれば,自分の「かかりつけ」を1つに決めることができます。