新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後遺症はメディアでも数多く報道され,一般にも広く知られるようになりました。一方で,厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.0版」(以下,「罹患後症状のマネジメント」)を見ても,「罹患後症状はいまだわかっていないことも多く,標準的な治療法は確立していない」と繰り返し書かれており,患者さんが来られたときにどうしたらよいのかわからないという先生も多いのではないでしょうか。
本稿では,2020年3月から,7000人以上のCOVID-19後遺症の患者さんを診察してきた経験から,現時点で比較的安全に行え,効果がある程度見込めると考えている治療について,ご紹介します。なお,今も世界中で治療法に関する研究が行われている新規疾患であり,現在のところ特効薬がないことから,今あるもので対処することを重視した結果,伝統医学や理学療法の比重が大きくなっています。現場で必死にいろいろ試す中で得られた経験則が多く含まれていること,また,ご紹介する治療法も十分なエビデンスのないものが多く含まれていることをご了承下さい。
COVID-19後遺症が起きる機序として,ウイルスのRNA残存に伴う免疫調節障害,腸内細菌叢の乱れ,自己免疫,微小血栓,血管内皮障害,神経シグナルの機能異常1),新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の持続感染2),などが指摘されています。また,非常に広範な症状が,年余にわたって持続しうることも指摘されており,患者さんがどのような症状を訴えたとしても,「そんな症状が起きるはずがない」とは決して言えない状況です。ゆえに,「患者さんの訴えを否定しない」ということは非常に大切な態度と言えます。
当院で聴取している14の症状についての有症状率のグラフをお示しします(図1)。各症状は0~10のNRS(Numerical Rating Scale)で聴取しており,経過中,症状が少しでもあれば“症状あり”としていますので,比較的高い有症状率になっています。このうち,特に「倦怠感」と「思考力の低下(ブレインフォグ)」が仕事を失ったり学校に行けなくなったりする原因となる症状であり,COVID-19後遺症の典型例における中核症状と言ってよいでしょう。「倦怠感」は重症となれば,入浴だけで数日間寝込む,箸を持つことができない,といった症状を呈し,生活上,重大な障害となります。
留意しなければならないことは,見た目や一般的な採血結果,頭部MRIなどでは異常が見られないため,患者さんが訴える症状のつらさを軽視してしまいがち,ということです。特に,患者さんが診察室を訪れることができるのは,何日も(時には数週間)かけて体調を整えたときであることも少なくなく,そのときの状態を見て「元気そう」などと安易に考えることは,厳に慎まなければなりません。可能であれば,オンライン診療を併用すると,調子が悪いときの状態を知ることができます。
当院の患者さんのうち,少なくとも3人の方が自死しており,非常に自死率の高い疾患です。患者さんから「地元の医師から『精神疾患に決まっている』と鼻で笑われるような対応をされ,深く傷ついた」というような訴えを毎日のように聞きますが,不適切な対応で患者さんを自死に追い込まないよう,受容的でエンパワーメントを意識した対応を心がけて下さい。
疫学については,2023年公開の厚生労働省の調査結果で,COVID-19罹患後に症状(後遺症)を有した割合が成人(18~79歳)で11.7~23.4%,小児(5~17歳)でも6.3%と報告されています3)。モデルナ社が公開しているCOVID-19患者数推移4)からは,全国で5000万人以上が感染した可能性があると推定され,仮にその中の10%がCOVID-19後遺症になるとすれば,500万人以上が罹患している可能性があるということになります。実際,米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,成人の5.3%(約1370万人)がCOVID-19後遺症になっているという国立衛生統計センター(National Center for Health Statistics:NCHS)の報告を公開しています5)。COVID-19後遺症は既にコモンディジーズになっていると考えるべきです。