監修: | 伊藤公一(伊藤病院 院長) |
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編著: | 渡邊奈津子(伊藤病院内科 部長) |
判型: | A5判 |
頁数: | 320頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2023年03月13日 |
ISBN: | 978-4-7849-2457-8 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
●甲状腺疾患は非特異的で多彩な症状を示します。各科へ受診したり、見逃されたりして、診断が遅れる症例があります。未診断・未治療の症例が多く存在する可能性もあります。
●本書では、診療科別に甲状腺疾患を疑う契機となる症状や病態を紐解き、甲状腺疾患を疑うポイントをまとめました。
●甲状腺疾患が否定された場合、その症状や病態が、どのような疾患によってもたらされているのかについても理解することができます。
●「甲状腺疾患の診断が苦手」、「正診に至る思考プロセスを体系的に学びたい」といったお悩みを解決します。甲状腺診療に携わるすべての医師におすすめの1冊です。
監修者序文 伊藤公一
編者序文 渡邊奈津子
はじめに 甲状腺疾患の診断の進め方 松本雅子
第1章 内科
1 糖尿病で発見される甲状腺疾患 吉村 蘭
2 高血圧患者で発見される甲状腺疾患 小林佐紀子
3 脂質異常で発見される甲状腺疾患 福下美穂
4 循環器内科(不整脈,心不全,徐脈)で発見される甲状腺疾患 高木 元
コラム 高齢者の特徴 會田 梓
コラム 甲状腺機能異常と一般血液検査所見 吉村 弘
5 偶発腫として発見される甲状腺疾患(甲状腺腫瘍) 星山綾子
6 下痢・便秘・食欲低下で発見される甲状腺疾患 木下 綾
7 貧血で発見される甲状腺疾患 渡邊奈津子
8 腎障害・むくみで発見される甲状腺疾患 中村はな
9 頸部痛・発熱で発見される甲状腺疾患 鈴木 愛
第2章 精神科・心療内科
1 うつ病で発見される甲状腺疾患 深尾篤嗣,高松順太
2 認知症で発見される甲状腺疾患 河井伸太郎,廣西昌也
3 睡眠障害で発見される甲状腺疾患 鈴木菜美
第3章 小児科
1 成長の問題で発見される甲状腺疾患 長崎啓祐
2 学校生活の問題(落ち着きのなさなど)で発見される甲状腺疾患 南谷幹史
第4章 産婦人科
1 月経異常・更年期障害で発見される甲状腺疾患 髙松 潔,小川真里子
2 不妊で発見される甲状腺疾患 谷村憲司
3 妊娠で発見される甲状腺疾患 荒田尚子
第5章 耳鼻科
1 嗄声で発見される甲状腺疾患 友田智哲
2 のどの違和感で発見される甲状腺疾患 友田智哲
3 難聴で発見される甲状腺疾患 友田智哲
第6章 整形外科
1 骨粗鬆症で発見される甲状腺疾患 槙田紀子
第7章 眼科
1 EGDやGO先行型GDで発見される甲状腺疾患 神前あい
第8章 皮膚科
1 脱毛で発見される甲状腺疾患 大山 学
第9章 救急外来
1 意識障害で発見される甲状腺疾患 宇野安理沙,大野洋介,田中祐司
2 四肢麻痺・筋力低下で発見される甲状腺疾患 吉原 愛
索 引
監修者序文
近年の甲状腺疾患に対する診断の進歩は著しく、血液検査と頸部超音波検査の両者をもって、ほとんどの疾患が即座に診断できるようになった。
特にBasedow病は血中高感度TSHによる甲状腺機能の正確な評価と、 TSH受容体抗体(TRAb値)による自己免疫機序の活動性評価により、鑑別診断から重症度の把握までもが容易となった。一方、治療については古くから薬物治療、手術、アイソトープ治療の3種類があるが、いずれも一長一短が存在し、各患者に適した方法を厳密に選ぶことが大切である。そして治療内容は薬剤初期投与量の工夫、亜全摘術から全摘術への変更、重症度に対応したアイソトープ投与量調整など、多くの試行錯誤が今なお繰り返されている。
橋本病は抗体検査の定量法普及により、発見率が急速に高まっているものの、決して容易に治療導入がなされてはならない疾患である。治療に伴い、甲状腺機能低下症に陥り、ホルモン薬補充が要される症例のほうが限られるからだ。数多く認められる潜在性甲状腺機能低下症のうち治療対象とする症例を十分に吟味する必要がある。そして治療の導入にあたって、特に高齢者や合併症のある患者では甲状腺ホルモン薬の補充を緩徐に行わなければならないといったコントロールの難しさもある。
悪性腫瘍では濾胞癌の鑑別診断にいまだ難渋するものの、圧倒的に頻度の高い甲状腺乳頭癌については、超音波検査ガイド下穿刺吸引細胞診により、ミリ単位の微小癌までもが診断できるようになった。それに伴い、微小乳頭癌については、生命予後の良さから、症例を選んで経過観察を施し、手術内容も縮小傾向にある。
一方、大きな腫瘍、腺内多発、浸潤癌、多臓器転移例などの進行癌に対しては、積極的に甲状腺全摘を行い、術後アイソトープ治療や分子標的薬治療に繋げている。
とはいえ、甲状腺疾患は、ありふれた病気が圧倒的多数でありながら、病状が進行するまで、患者自らが、その存在に気づかずに過ごしてしまうケースが多々存在する。そのため、患者がダイレクトに専門医の外来を訪れる場合は少なく、多くの患者が、漠然とした体調の変化から受診した、かかりつけ医に診断され、健診施設のスクリーニング検査で異常が明らかとされ、診療が開始されるケースが多い。
というのも、Basedow病や橋本病による機能異常で決め手になるような臨床所見はなく、手術例が最も多い乳頭癌についても、腫瘤を自覚するケースが稀だからだ。
そこで、いずれの甲状腺疾患においても、早期発見と早期治療が肝要であり、スムーズな診療連携が望まれる。
よって本書は、あらゆる診療科目で様々な病状から甲状腺疾患に遭遇した場合を想定し、専門医によって執筆されているが、いずれの章も決して例外的なケースではなく、実際の臨床現場をイメージしたものであることを改めてここに強調したい。
2023年2月
伊藤病院 院長
伊藤公一
編者序文
甲状腺疾患は非常に頻度が高い疾患です。何らかの甲状腺疾患を有している割合は10%を超えるとの報告や、治療を要する甲状腺機能異常や甲状腺癌は3%にのぼるとの報告があります。そして、甲状腺疾患の多くは標準的な治療法や臨床的な対応が示されており、診断をするメリットがあるといえます。
しかし、甲状腺疾患は非特異的で多彩な症状を示すため、各科へ受診したり、見落とされたりして、診断が遅れる症例があります。また、未診断・未治療の症例が多く存在する可能性も指摘されています。このため、漠然とした体調の変化から受診した実地医家の先生方に、甲状腺疾患を疑っていただくことこそが適切な診断・治療へ向かう初めのステップとして非常に重要となります。
そこで本書は、見逃しがないようにおさらいしたい実地医家の先生、若手の先生を主な対象に、診療科別に甲状腺疾患を疑う契機となる症状や病態を紐解き、甲状腺疾患を疑うポイントをまとめることといたしました。一方で、精査の結果、甲状腺疾患が否定されることがあります。この場合、その症状や病態が、他のどのような疾患によってもたらされているのかを理解することは、内分泌や甲状腺を専門とする先生方にとっても非常に重要であると、本書の執筆・編集を通じて、改めて痛感しました。本書は実地医家の先生、若手の先生だけでなく内分泌や甲状腺を専門とする先生方にも有用なものになると考えています。
執筆は伊藤病院で勤務する医師に加え、該当する領域における第一人者の先生方にご尽力を賜りました。執筆をご快諾くださいました先生方に深く感謝申し上げます。
本書が、甲状腺診療に関わるすべての先生方、そして甲状腺を病む方々のために何かお役に立てましたら幸甚に存じます。
2023年2月
伊藤病院内科 部長
渡邊奈津子