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後迷路性難聴(聴覚失認・皮質聾)[私の治療]

No.5245 (2024年11月02日発行) P.50

加我君孝 (東京大学名誉教授)

登録日: 2024-11-05

最終更新日: 2024-10-29

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  • 後迷路性難聴のうち,聴皮質・皮質下の内側膝状体から聴放線,聴皮質に至る大脳への投射路の両側の障害では,聴覚失認や皮質聾が生じる。片側の聴皮質や聴放線の障害では,片耳の聴覚検査で顕在化する聴覚障害は稀である。

    ▶診断のポイント

    両側の聴皮質・皮質下の脳血管障害,すなわち脳出血や脳梗塞によって生じる。一方,小児ではヘルペス脳炎,副腎白質ジストロフィーやランドウ・クレフナー症候群などで生じる。

    聴覚失認では「音はわかるが言葉はまったく聞き取れない」「言葉も音楽も環境音も聞き取れないが音としてはわかる」が代表的な症状である。皮質聾ではまったく音を感じることができない。両側障害の脳の損傷の程度によって聴覚失認あるいは皮質聾が生じる。

    両側聴皮質あるいは両側聴放線障害例ではほとんどの聴覚認知機能が失われているため,見かけ上,重度難聴症例と類似している。しかし,耳音響放射テストも聴性脳幹反応(ABR)も左右耳とも正常で,音の強弱の認知はある程度可能であり,大きな音を聞かせると不快に感じる程度の残存聴覚がある。視覚と音の統合能力が部分的に保たれることから,聴覚リハビリテーションは読話と残存聴覚を生かして工夫する。聴覚失認では残存聴覚があるが,皮質聾では残存聴覚を認めない。

    一度の脳血管障害で両側の聴皮質や聴放線が障害されることは少なく,多くは過去に片側の大脳半球に脳血管障害の既往があることが少なくない。一時的に片麻痺や失語症状が出現するが回復し,その後に間を置いて反対側の大脳半球に脳血管障害が生じて初めて,両側の聴皮質あるいは聴放線が損傷されるため,言葉も音楽も環境音も聞き取れなくなる。稀に一度の両側の大脳半球の脳血管障害で生じることがある。

    【検査】

    純音聴力検査:両側の聴皮質や聴放線が損傷された場合,純音聴力検査がほぼ正常なタイプ,閾値の上昇が軽度~中等度のタイプ,高度上昇するタイプ,の3つのタイプがある。聴放線の数年にわたる逆行性変性のため,純音聴力の閾値が上昇することがある。

    語音聴力検査:単音節の認知検査である語音聴力検査では,最高明瞭度は10%以下で,単語や短文の認知もほとんどできない。

    他覚的聴力検査:耳音響放射テストは正常である。ABRも正常波形を示し,第Ⅴ波の閾値も正常範囲である。

    聴覚的理解:トークンテストおよび標準失語症テストの聴覚項目の検査を用いるが,ほとんど認知できないため,正答を得ることは困難である。

    環境音テスト:環境音の認知は絵カードのような手がかりがない限りほとんどできない。しかし,太鼓や足音のようなリズムのある環境音はわかることがある。

    音楽認知テスト:音の3要素であるピッチ,強度,長さ,および音楽の3要素であるメロディ,リズム,ハーモニーと音色の区別や認知は著しく低下する。

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