急性心不全は,「急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全をきたし,それに基づく症状や徴候が急性に出現,あるいは悪化した病態」である。発症機序として,心機能低下を主たる背景とし緩徐に増悪するcardiac failure(slow pathway)と,血管抵抗の増加を背景とし急激に増悪するvascular failure(fast pathway)が考えられている。急性増悪期では,交感神経の著明な賦活が関与することが多い。増悪因子は,過剰な塩分・水分摂取,服薬アドヒアランス不良,ストレス・過労といった生活要因以外にも,虚血性心疾患,不整脈,感染症など,多岐にわたる。
うっ血に基づく症状には,息切れ,夜間発作性呼吸困難,起坐呼吸,喘鳴,咳嗽,bendopnea,体重増加,浮腫などがある。低心拍出に基づく組織低灌流症状には,易疲労感,全身倦怠感,食思不振,乏尿,身の置きどころのない不安感などがある。自覚症状に加え,湿性ラ音やⅢ音の聴取,頸静脈怒張などの身体所見,胸部X線でのうっ血・胸水貯留,BNPまたはNT-proBNPの上昇は,診断に有用である。BNP 200pg/mL,NT-proBNP 900pg/mL以上では,介入を要する心不全の可能性が高い。心エコーにおける左室駆出率や心拍出量評価は,診断や管理の参考となる。
不安定な血行動態,心原性ショックのような組織低灌流症例では,強心薬や補液等での安定化を図り,必要に応じて機械的循環補助を検討する。呼吸不全を有するケースでは,酸素投与,非侵襲的陽圧換気,気管挿管を考慮する。
急性心不全の薬物治療では,うっ血の軽減,低心拍出の解除,心拍数の適正化が重要である。主に,うっ血を有する症例には利尿薬,低心拍出を有する症例では強心薬が選択される。高い収縮期血圧を有し,vascular failureの関与が示唆される症例(いわゆるクリニカルシナリオ1)には,血管拡張薬を考慮する。
初期治療開始後は,有効性を再評価するとともに,解除可能な心不全原疾患の鑑別を進め,特殊病態治療の要否を検討する。
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