心室細動(ventricular fibrillation:VF)は心室内に不安定なリエントリー回路が複数個発生し,無秩序な興奮(痙攣状態)となる。心電図では不定で幅の広いQRS波形の連続を認め,心拍出量はほとんどなくなり,急速に心肺停止に陥る。即座に治療を行わなければ救命が困難となる。
診断・治療は,事前のVF予測(専門家への紹介と一次予防),発症時の対応,除細動(蘇生)後の治療(二次予防)の3つのステージにわけて方針を立てる。
VFの多くは心筋梗塞の発生急性期に生じるが,初回発生を事前に予測することはきわめて困難であり,発生後は目撃者による心肺蘇生や除細動に委ねるしかない。しかし,心臓突然死を予測する因子として,①心機能の低下(左室駆出率≦35%),②NYHA心機能分類Ⅱ以上の心不全,③非持続性心室頻拍,④失神の既往,⑤心電図異常(ブルガダ症候群,QT延長症候群)などが知られている。これらを認める場合は植込み型除細動器(ICD)の適応について専門家へ紹介する。
VFが持続している場合は心肺停止状態で発見される。発見時は心肺蘇生術を施行しつつ,一刻も早く電気ショックを与える。院外発生では目撃者による自動体外除細動器(AED)の施行が切り札となる。診断は発作中の心電図記録が基本となる。
除細動後は,①復帰時の心電図,②心筋逸脱酵素,③冠動脈造影,④心エコーなどを駆使して原疾患を特定する。VFの原因となりうる疾患は,①急性心筋梗塞,②冠攣縮型狭心症,③心筋症(拡張型,肥大型),④陳旧性心筋梗塞,⑤ブルガダ症候群とその類似疾患(特発性VFやJ波症候群),⑥先天性あるいは後天性QT延長症候群,⑦心臓サルコイドーシス,⑧不整脈原性右室心筋症,⑨心筋炎,⑩カテコラミン誘発多形性心室頻拍などである。
突然死リスクを疑う所見を認めた場合は,専門家へ紹介する。
除細動後は可能な限り12誘導心電図を記録する。心電図連続モニター監視は必須で,VFの再発に備える。可能な限りQT延長症候群を否定し,アミオダロンの静注による予防を行う。また,青壮年期のやせ形の男性でアミオダロンが無効な場合はブルガダ症候群を疑う。
除細動後も血行動態が破綻している場合は補助循環の適応,低酸素脳症が疑われる場合は低体温療法を検討する。原因が明らかで,それが除外できる場合(たとえば,抗不整脈薬が原因のQT延長によるVFなど)は原因に対する治療を優先する。しかし,恒常的にVFの基質を有すると判断された場合は,ICDの適応を中心とした戦略を立てる。
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