歯科的疾患による炎症が上顎洞へと波及したもので,原因として上顎第1大臼歯と第2大臼歯の齲歯からの根尖病巣によるものが多いが,近年インプラント治療に伴う歯性上顎洞炎も増加している。診断と治療を行う際には,歯科との連携が重要である。
片側性に発症することが多く,片側の膿性鼻汁,後鼻漏,顔面痛,悪臭などの症状を呈する。根管治療を受けている歯が原因歯である場合,歯髄を抜く抜髄処置がなされているため,疼痛症状がないことに注意が必要である。診断には,副鼻腔CTの矢状断が有用である。
歯性上顎洞炎は,原因が歯科的疾患であるため,歯科にコンサルトし,齲歯が原因であれば根管治療や抜歯などの治療も依頼する。歯科に既に通院していて,原因歯に問題がないと歯科医から患者が説明を受けているケースもみられることから,副鼻腔CT画像を提示し治療の必要性について医科と歯科の間で情報共有を行う,医療連携が必要である。
歯性上顎洞炎の原因となる歯性感染症の原因微生物は,口腔連鎖球菌(Streptococcus anginosus groupなど)および嫌気性菌(Prevotella属,Peptostreptococcus属,Fusobacterium属,Porphyromonas属,Peptoniphilus属など)である。歯槽部に限局した初期の炎症では,好気性菌が中心であるが,炎症の重篤化および遷延化とともに嫌気性菌を起因とすることが多くなることから,歯性上顎洞炎では通常の急性鼻副鼻腔炎の起因菌であるStreptococcus pneumoniae,Haemophilus influenzae,Moraxella catarrhalisと異なることに注意した抗菌薬の選択が必要である。さらに,β-ラクタマーゼ産生嫌気性菌の増加にも対応するために,β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンや耐性菌がまだ少ないレスピラトリーキノロンの選択が望ましい1)。また,上顎洞穿刺・洗浄,副鼻腔自然口開大処置などの局所処置も並行して行う。
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