本連載では,医師限定オンラインサロン「ドクターズチャート」の代表であるMM先生,よいこはこいよ先生に,ドクターズチャート内での話題をもとに,イマドキの開業・開業医について語って頂きます。
MM 私は2019年の初めにTwitter(当時)アカウントを開設しました。それまでSNSにはまったく触れていませんでした。当時,深夜放送か何かで,Twitterが仕事に結びつくという特集を見て興味を持ち,アカウントを開設してみたんです。とりあえず情報収集や趣味のことをつぶやくだけでもいいのかなと思いましたが,私が発信できることといえば開業についてかなと思って,クリニック開業のポイントを毎日つぶやくことにしました。
よいこはこいよ(以下,よいこ) 実は私は,Twitterを2回始めているんですね。最初に始めたのは2010年ぐらいで,そのときは本名で,医療的なことを,クリニックのブログのミニチュア版のような位置づけで発信していました。当時,Twitterってミニブログとか呼ばれていたので,系統立てた内容のあることを発信するのがSNSかなと思って始めました。思いついたものをざっと書いたわけではなく,一呼吸おいて,しっかり書きためたものを140文字に短くして出すという感じだったんですね。でも,まったくその面白さがわからずに自然消滅したっていうのが1回目です。
よいこ そうですね。本名でやるので,医療のことをつぶやかないといけないという脅迫感みたいなものがあって,それでやめました。それでもう1回匿名で始めよう,というのが2019年の4月ぐらい。これまで形式ばって一生懸命書いたものとは逆で,今度は自分の開業医としての日常を綴るみたいな感じで,今日スタッフが突然退職した,雇用した,嬉しい,悲しい,受付のオペレーションで苦労してるとか,そういうふうに本当に自分の心を吐露しはじめると,同じようなことをしている人がいっぱいいるのに気づいたんですよね。
MM 当時はクリニック開業についてつぶやいているアカウントがなくて,それに興味を持つ開業医の先生たちからの反応が多かったですよね。
よいこ まさに,MM先生や,ほかにもプロフィールに開業医と出してないけれども開業医なんだなって,内容からわかるんですね。その話の深さから冷やかしでする内容でもないので,真面目に絡んでいるうちに,「制度的にこうだと思うけど,自分はこういうふうにやってる」って言うなど,情報を発信すればするほど,その返事とかのやり取りをしていくうちに,情報の精度がめちゃくちゃ高まっていくんですね。7割ぐらいの完成度だったものが,数人でつくったら完成するみたいな感じの世界があって,これがSNSの世界なんだなって思います。
よいこ そうですね。今インターネットで情報は溢れていると言われていますが,情報が溢れているんではなくて広告が溢れているだけなんですね。それらしい情報は出てくるんですけど,噂であったり,コンサルタントがポジションで投稿しているような情報であったりするので,本当の情報になかなかあたることができないということは,知っておく必要のある大事な点だと思いますね。一方で,SNSは非常に断片的な知識がどんどんタイムラインを流れていくんですけれども,我々を含めた開業医とかのポジショントークではない,頭の中からそのまま出してる情報というのも流れているので,リアルを知るにはやっぱりSNSから拾っていくことになると思います。
MM 私もスタートは発信なんですけども,もちろん発信していく中で収集もしています。それで言うと,さっきもよいこ先生がおっしゃったように,SNSだからこそリアルな,本当に開業医がそのとき感じたことの情報がポンと出てきたりもするんですけど,逆に最近は,ここでちょっとアピールしたいというような先生がいたり,明らかに誇張してるなっていうような先生もいたりする。だから,そこをある程度見きわめるリテラシーみたいなものがないとダメです。見きわめる力をつけようと思ったら,やっぱり一定時間ある程度そこにどっぷり入る時間がないと見きわめられないっていうところもある。その難しさがありますよね。ただ,入り込みすぎて逆に沼にはまってしまうのも怖いんですけど,薄く情報を取るだけではなかなか本当の部分の情報は得られないというところもあるので,ちょっと難しいですね。
よいこ おっしゃる通りです。情報の信頼度というのは,一見わからないんですね。奇抜なことや面白いことを言うほうがSNSでは受けるので,そっちのほうがタイムラインに多く流れてくるんです。どうやって,まともなことを言ってる人かどうかを見きわめるか。しばらく見てると,何人かのやり取りの中に信用できそうな人がなんとなく見つかってくる。そうすると,その人がよく話してる人たちとか,その分野のまともな人たちっていうのは,なんとなくわかってくる。この手の話だったらこの人だっていうのが見えてきますね。
MM 「俺は何億稼いでる」みたいに給与明細を出すような先生とか,逆に「もう開業なんてわかんないから,やらんほうがいいぞ」みたいなことを言う先生もいる。それでちょっと不安になるっていうような先生もいると思うんですけど,それに振り回されすぎないようにして,自分で情報を集めていく力は必要と思いますね。
よいこ あと,SNSで方法論が流れすぎている。立地はこうあるべき,人事論はこうあるべき,開業の規模はこうするべきみたいな完璧を求めすぎて,それ以外はもう勝ち筋がないみたいな感じの論調がある。でもそういうものではなくて,実際に飛び込んでスタートしてみて,いろいろ工夫しながらやっていくのが仕事だと思います。
MM 医者って完璧にテスト対策をして当日満点をめざすみたいな世界で過ごしたい人が多いので,開業もそんな感じで,SNSで集めた情報も片っ端から全部やっていかなければと思ってしまうんじゃないでしょうか。たとえば,開業の内覧会の手順はこんな感じでやる,何人入ったら最初に何パーセントの患者さんが来そうだとか。データだけが独り歩きしてがんじがらめになって,一歩目がふみ出せない。そういう人もよく見ますので,そこがSNSとの付き合いの難しいところですね。
よいこ SNSで拾うのはどちらかといえば総論ですかね。SNSは,開業生活とはどういうところにピットフォールがあって,という疑似体験をする場所かなと思います。まずそこが入り口で,それプラスその開業医の感情とかその場の対応に関する一次情報があると。開業に必要な,たとえば制度であったり,立地であったりとか,そういう本当の情報っていうのは,ウェブサイト上のどこかに正しく書かれている場所がありますので,SNSで得た情報を足掛かりに,本当の一次情報を自分で読みにいくという使い方かなと思いますね。
MM 結局,流れてくる情報には怪しいものもあって,開業情報に関しても同じようなことが起きていますね。すべて鵜呑みにせずに,これに対してあの人はどういうふうに反応するんだろう,というのもいろいろ見ながら,多角的にその内容に対して自分でほかのもので調べたりしながら根拠づけていくみたいなことは,やっぱり必要かもしれないです。ただSNSにはスピード感はやっぱりあるんですよね。たとえば診療報酬の改定の内容とかでいうと,ここがポイントだよねみたいなことを誰かがポンとつぶやくのが目につくっていうのもやっぱりSNSなので,そのとっかかりとしてはどう考えても他メディアの情報よりも早いです。
よいこ それと,SNSが向いているのは,正解がないものだと思います。たとえば,クリニックでクレジットカードを使えるようにするかどうか,まさに正解はないんです。ある先生は,それは患者さんサービスとして必要だと言うし,保険診療にクレジットカードを入れるのは法律違反だという間違った情報を言う人もいる。婦人科や高額な処置が増える眼科ではクレジットカードは必須だけど,田舎のクリニックではクレジットカードではなくスーパーの電子マネーを使う人が多いとか。そういう玉石混交な世界で,診療科や地域性など,それぞれの視点からの多様な答えが得られる。その中で,開業していく土地で,この人が自分に近いスタンスでいるなっていうロールモデルを見つけるという,それがSNSの情報のつかみ方かなと思いますね。
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