〈運動療法〉
腹筋や臀筋を含めた体幹筋力の強化,四肢・体幹を含めた全身の柔軟性の獲得を指導する。運動療法では無理のない範囲で徐々に強度を上げていくことが重要である。近年,運動療法の継続は,脳内のドーパミンシステムを賦活化し,オピオイドを放出することにより疼痛軽減効果があることが報告されている。
〈生活指導〉
日常生活での姿勢の改善,適切な体重管理,定期的な運動,特に臀筋,背筋,股関節周囲筋のストレッチを心がけることが重要である。長時間の中腰など無理な動作をしない,同じ姿勢での作業は避け,休憩時にはストレッチや軽い運動を取り入れることも推奨される。安静を保つよりも,体を動かすことが腰部症状のみならずからだ全体や精神にも良い影響を与えることを指導する。また,コルセットも有効なことが多いので,重量物挙上,ゴルフなどスポーツ時にはコルセット装着を勧める。
〈薬物療法〉
腰痛に対しては非ステロイド性抗炎症薬,筋弛緩薬,アセトアミノフェン,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液などを組み合わせて使用する。慢性化する症状には,トラマドールなどの弱オピオイドを含んだ鎮痛薬を使用する。オピオイドには便秘,嘔気・嘔吐,眠気などの副作用があり,副作用対策(初期の制吐薬と便秘薬併用)も考慮して慎重に使用する。慢性的な腰痛に対しては,デュロキセチンなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬も有用である。ビリビリ,チリチリといった下肢痛がある場合には,プレガバリンやミロガバリンなどのCaチャネルα2δリガンドを使用する。
〈ブロック治療〉
痛みの原因となる分離部や椎間関節に対して局所麻酔薬を注入,症状の緩和を図り運動療法を行う。分離部ブロックは治療とともに診断としても有用である。また下肢痛の症例に対しては,選択的神経根ブロックや硬膜外ブロックも有効である。選択的神経根ブロックは治療とともに責任神経根の高位診断としても有用である。
〈装具治療〉
局所へのストレスを軽減させる目的でコルセットを処方し,1~2カ月の装着を指示する。コルセットの目的は体幹筋のサポートと不適切な姿勢の是正である。運動療法と組み合わせて用いることが有用である。長期間の装具着用は筋力の低下をまねくため注意が必要である。
一般的に適切な保存療法が行われ,それでも症状の緩和が得られず日常生活に支障をきたす場合や,下肢の筋力低下など重篤な神経障害がある場合に手術加療の適応となる。手術治療は個々の症例の社会的背景や併存症を考慮して決定するが,pedicle screw,ロッド,椎体間ケージを用いた障害椎間の脊椎固定術が適応となることが多い。
成人期の腰椎分離症で,分離部由来の腰痛があるが椎間にすべりや不安定性がない症例では,pedicle screw,lamina hook,V字型に曲げたロッドを用いた分離部修復術が適応となることもある。
手術治療により下肢痛症状は比較的改善しやすいが,下肢のしびれ症状は改善に乏しい。 また腰痛が分離部に起因する症状であるとブロック治療等で適切に診断されている場合,分離部を含む障害椎間の固定術は腰痛の改善に有用である。
手術合併症には,周術期の感染,神経障害,硬膜損傷,下肢静脈血栓症などがあり,中長期的には偽関節や隣接椎間障害などがあり,十分なインフォームド・コンセントが必要である。
無症状である場合や偶然発見された成人期腰椎分離や腰椎分離すべりもあり,一般的には予後良好であることが多いため,患者に過度な不安を与えてはならない。運動療法や生活指導で症状が軽快することを説明する。
各種保存療法を行っても症状の改善が得られず日常生活に支障をきたしている場合や,重篤な神経障害を生じている場合には,漫然と保存療法を継続せず,手術療法に切り替える必要性を説明する。
【文献】
1)Sakai T, et al:Spine(Phila Pa 1976). 2009;34(21):2346-50.
2)Omidi-Kashani F, et al:Asian Spine J. 2014;8(6):856-63.
3)Gagnet P, et al:J Orthop. 2018;15(2):404-7.
有馬秀幸(浜松医科大学整形外科学講座講師)
松山幸弘(浜松医科大学整形外科学講座教授)