エムポックス(旧称:サル痘)は,1958年にデンマークでカニクイザルから発見されたサル痘ウイルスによる感染症で,1970年に初めてヒトでの感染が報告された。2022年に変異したウイルス(クレードⅡb)が世界中に流行拡大するまで,患者発生はアフリカのサハラ砂漠以南地域に限局していた。クレードⅡbのウイルスによる流行の特徴は,性感染症としての感染経路が最も一般的で,特に男性同士の性的接触による流行の拡大を認める(2024年3月までに日本国内で報告された患者240例は,すべて男性であった)。アフリカで流行を認めるクレードⅠおよびクレードⅡaによるエムポックスと比較して致命率は低く,0.1~0.2%とされるが,未治療のHIV感染者など免疫不全者では死亡例も認める(国内では240例の報告のうち1例が死亡)。
国内で報告されるクレードⅡbウイルスの感染例では,古典的な臨床経過をたどらないことも多く,最も出現頻度が高い症状は皮疹である。典型的には,境界明瞭で中心臍窩を伴う皮疹が,紅斑→丘疹→水疱→膿疱→結痂→落屑の過程で生じるが,性交渉による感染例では,接触部位(肛門,性器周囲,口腔内等)の潰瘍化した皮疹による疼痛を主訴に受診することも多い。古典的には皮疹に先行するとされる発熱は,皮疹についで頻度の高い症状であるが,国内症例の約3割では認められていない。他の性感染症を合併する症例も多く,他の性感染症の診断や非典型的な治療経過,不特定多数との性交渉歴等もエムポックスを疑うきっかけとなる。同様に,エムポックス患者に併発する性感染症を見逃さないようにする。
エムポックスの診断には地方衛生研究所において,行政検査による確定検査(PCR検査)を実施する必要があるため,最寄りの保健所に連絡,相談を行う。
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