痒疹とは,痒疹丘疹または結節を主徴とする反応性皮膚疾患で,臨床型は,結節性痒疹,多形慢性痒疹,その他の痒疹に分けられる。原発疹(一次的に出現する皮疹)として生じるものと,搔破によって二次的に生じるものがある1)。自験例はアトピー性皮膚炎による二次的な痒疹であるが,ステロイド外用,抗ヒスタミン薬内服,紫外線療法などによっても難治なことが多い。最近ではアトピー性皮膚炎の治療薬であるデュピルマブとネモリズマブが結節性痒疹にも保険適応となり,劇的な治療効果を得られるようになったが,高額のため使用できる患者は限られる。痒疹診療ガイドライン2020における漢方薬の痒疹に対する推奨度はC1で,大柴胡湯加減,黄連解毒湯,四物湯,補中益気湯,温清飲,柴苓湯,越婢加朮湯,桂枝茯苓丸と桂枝加朮附湯による治療が有効であった報告がある1)。
一方,桂枝茯苓丸加薏苡仁は,桂枝茯苓丸に薏苡仁を加えたものである。桂枝茯苓丸は“瘀血”に対する代表的な方剤で,月経困難,更年期障害などの婦人科疾患によく用いられる。薏苡仁は,尋常性疣贅(いぼ),伝染性軟属腫(水いぼ)に対する効果がよく知られているが,利湿,排膿作用を持ち,生肌作用があるとされている。そのため,桂枝茯苓丸加薏苡仁は婦人科疾患に加え,瘀血を認める尋常性ざ瘡(にきび)や手足のあれ,肝斑などに用いられる。瘀血とは,血(けつ)の循環が障害され停滞した状態で,イメージとしては微小血管の血流障害である。
瘀血の診断において舌診は,一般外来でも取り入れやすい。「舌を出して,そのまま舌先を上げて裏を見せてください」と患者に言って,舌色が暗紅色で,舌下静脈(舌裏に見える静脈)が太く張っていたら,「瘀血徴候あり」と判断できる。また,眼瞼部のくまや,皮膚の毛細血管拡張も瘀血の所見である。
自験例は瘀血病態を認めたため,湿疹に対してしばしば使われる十味敗毒湯に桂枝茯苓丸加薏苡仁を加えたところ,痒疹に対して効果があった。桂枝茯苓丸加薏苡仁は痒疹に限らず,(男女を問わず)瘀血のあるアトピー性皮膚炎患者に長期的に使用して経過が良い例がある。また,副作用で問題となる生薬の甘草や黄芩が含まれないため使用しやすい方剤でもある。