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【識者の眼】「深刻な病院の経営危機」伊関友伸

伊関友伸 (城西大学経営学部マネジメント総合学科教授)

登録日: 2025-01-27

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全国の病院で経営状況が悪化している。筆者の研究テーマである自治体病院でも、コロナ補助金で黒字の病院が相次いだときから一転、ほんとどの病院が赤字に苦しむ事態になっている。2024年12月12日に行われた全国自治体病院協議会の記者会見では、224の会員病院の2024年度上半期(4〜9月)の医業収支が569億円のマイナスとなり、前年同期比で175億円赤字幅が拡大したとする調査結果が報告された。医業収益が前年同期を1.8%上回ったものの、医業費用が前年同期3.5%増となったという。

全国自治体病院協議会の望月泉会長は、「物価高騰などによる医業費用の伸びが、収益をはるかに上回った」と経営環境の厳しさを訴えている。やはり、人件費や物件費の高騰に対して診療報酬の増加が追いついていないことが経営の悪化の最大の要因であろう。病院経営の危機は、自治体からの財政措置のある自治体病院よりも他の経営主体のほうがいっそう深刻とも考えている。

さらに、物価の高騰は、老朽化している病院建物の建て替えにも影響している。独立行政法人福祉医療機構の「2023年度福祉・医療施設の建設費について」によると、2012年度に22万円だった病院の1床当たり建設単価が、2023年度には41.1万円と2倍に達している。建設費の高騰で病院の建て替えを断念し、経営の継続を断念する病院も出てきている。

そもそも診療報酬制度は、わが国の医療インフラである病院建物の建て替え経費を考慮するものではなく、病院経営での利益を投入することを想定している。利益がほとんどない、恒常的に赤字である現在の病院経営の状況では建物建て替えの余力はまったくないといえる。国も病院建物などの医療インフラ整備について、医療機関の努力、競争原理に任せており、計画的に整備するという視点は少ないようにも思われる。

このような病院の危機に対して、国民、行政、報道機関の危機意識は低い状況にある。現状では、病院の経営状況が改善するほどの診療報酬増は期待できないように思える。残念ながら、病院の経営破たんが相次ぎ、医療機関が救急や入院などの医療を提供できなくなるまで世の中は放っておかれる可能性が高い。一歩先を読んで適切な資源分配をする「知恵」を日本国民は持つべきと考える。医療インフラである病院建物の建て替えも国の財産という視点で計画的に整備していく必要があると考える。

伊関友伸(城西大学経営学部マネジメント総合学科教授)[自治体病院][経営マネジメント]

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