▼早期発見と治療法の進歩とともに、わが国の全がん5年相対生存率は58.6%(診断年2003~05年)と上昇傾向にあり、がん患者・経験者の中にも長期生存者が増えている。しかし一方で、がんの診断を受けて1年以内の患者が自殺や不慮の事故で亡くなるリスクは、がんになっていない人の約20倍に上ることが、最近の研究で明らかになった。その心理的ストレス・抑鬱は、診断後数カ月までが最も強いという。治療に伴うライフスタイルの変化による認知・身体・社会的機能の低下が、自殺や事故のリスクを高めると考えられている。
▼患者にとってそれだけ社会とのつながり、特に仕事を失う不安は大きい。しかし、がんと診断された時点で、仕事を続けることは難しく、治療に専念する必要があると考えてしまう患者は少なくない。家族や職場も同様だ。実際、がんに罹患した勤労者の約30%が依願退職、約4%が解雇、自営業の約13%が廃業したことが報告されている。
▼そのため、厚生労働省の検討会が23日にまとめたがん患者・経験者の就労支援のあり方に関する報告書では、まずは告知の時点で、主治医が病状を考慮した上で「今すぐに仕事を辞める必要はない」という一言を患者に伝えよう、と提言している。その一言が、患者が今後の生活における希望を話すきっかけとなり、治療と就労の両立、医療と職場の連携への第一歩となる。今後の治療の見通しや起こり得る副作用・対応を明確に説明することで、今後の仕事との両立について患者自身が把握し、企業に対し適切に説明することもできるようになる。
▼報告書の提言は、がん診療連携拠点病院の医師を想定したもの。ただ、主な治療を終えた後の経過観察期には、そうした専門医療機関への通院頻度も減り医療の支援も得にくくなる。そこで期待されるのが、地域のかかりつけ医の役割だ。日常診療を通じて患者や家族と継続的に接点を持ち、既往歴や家庭環境、生活習慣など、患者の個別性を把握していることは、就労を含めた暮らしを支える上で大きな強み。治療と就労の両立に関しては、これまでに厚労省の研究事業等でマニュアルやQ&A集など多くの支援リソースが開発されており、そうした情報を提案することもできる。限られた医療資源の中で患者の就労にまで関わることは難しいが、国民の2人に1人ががんになる時代、目の前の患者を支援リソースに“つなぐ”ことから始めていきたい。