▼妊娠期からの切れ目のない支援の実施や、初期対応の迅速化、的確な対応のための関係機関の連携強化─。児童虐待を防ぐための対策として、これらが関係者の共通認識となって久しい。実際の現場では多くの関係者が、虐待を受けた子どもたちを助け、虐待に至らないよう養育者を支援するなどの努力を重ねているが、依然として死亡事例が後を絶たない。
▼厚生労働省が9月に発表した児童虐待の検証結果(第10次報告)で注目されるのが、死亡事例の中には、加害者となった養育者に精神疾患のある事例が例年一定数含まれていることである。第5~10次報告の実母による虐待死事例(392例、456人)の中で、実母に精神疾患のあった事例は73例、79人。死亡時の子どもの年齢は、0歳児が約2割で、17歳までの各年齢に分散している。心中以外の事例では実母の診断名は統合失調症、心中事例ではうつ病が最も多く、年齢は30歳以上が8割を占める。報告書は、養育者の主治医と市町村職員・児童相談所との連携による支援や、希死念慮のある養育者の場合、家庭における養育の限界を見極めた上で、適切・迅速な対応が必要としている。
▼報告書は、0日・0カ月死亡事例にも着目。背景には「望まない妊娠」という問題があるとして、妊娠届を行わず健診を受けない妊婦について、確定診断のために産科を受診した機会を捉え、妊娠届や母子健康手帳交付の手続きを速やかに行うよう指導を徹底するなど行政サービスとの切れ目ない連携が重要としている。また、思春期から性に関する教育や正確な情報を提供し、妊娠・出産について責任を持った判断ができるよう支援する必要性を指摘。既に虐待事例で行政機関が対応している母親が妊娠した場合にも着目し、きょうだいの養育に対するリスクが高まる可能性や、出産後の養育環境の変化を想定しながら支援を継続していくべきと訴えている。
▼産科や精神科、小児科をはじめとする関係医療機関は、報告書の提言と日常の対応を照らし合わせ、不足している視点や他の機関・関係者とさらに連携すべき点はないかなど、改めて確認する機会としたい。各地で進められている各医療機関と中核医療機関との相談・連携、症例の集約と解析、対応へのフィードバックといったネットワークが、子どもの安全が疑われたとき、すべての関係者が即時対応できる体制づくりにつながる。関係者の努力が、1人でも多くの子どもを虐待から守ることを願いたい。