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肺癌に対するロボット支援手術

No.4768 (2015年09月12日発行) P.58

中村廣繁 (鳥取大学医学部器官制御外科学講座 胸部外科学分野教授)

登録日: 2015-09-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

肺癌に対する胸腔鏡手術は,広く日本中で行われるようになりました。近年,ロボット支援手術も行われるようになりましたが,胸腔鏡手術とはどこが違うのでしょうか。鳥取大学・中村廣繁先生のご教示をお願いします。
【質問者】
伊達洋至 京都大学大学院医学研究科器官外科学講座 呼吸器外科学教授

【A】

肺癌に対する胸腔鏡手術は「肺癌診療ガイドライン」上,推奨グレードC1(科学的根拠は十分ではないが行うことを考慮してもよい)で,標準手術としては十分とは言えません。手術支援ロボット“da Vinci”を用いた胸腔鏡手術(以下,ロボット支援手術)は3次元視野と7つの関節を持つ鉗子による精緻操作で,胸腔鏡手術の難点を補う新技術として期待され,わが国でも2012年の前立腺癌に対する保険適用以降,急速に普及してきています。しかしながら,肺癌に対する両者の前向き比較試験の報告はいまだなく,明らかな有用性は立証できていません。
最近の研究をみると,わが国ではNakamuraら(文献1)が7施設,60例の初期成績を検討し,手術時間は長いが,術後合併症が少ないこと(特に,G3以上の呼吸器合併症3.3%)を報告しました。欧米ではDylewskiら(文献2),Cerfolioら(文献3)が良好な周術期成績,Parkら(文献4)が良好な予後を報告しました。
開胸,胸腔鏡手術との比較では,Veronesi(文献5) は根治性,安全性は同等で,ロボット支援手術は操作性,ラーニングカーブの短さでまさるが,高コスト,使用器具の限定,長い手術時間が欠点としました。Kentら(文献6) ,Adamsら(文献7) は米国の大規模データベースから,ロボット支援手術は死亡率,合併症率,在院日数において開胸手術より良好で,胸腔鏡手術とほぼ同等であると報告しました。
結論として,肺癌ではロボット支援手術のコストに見合うベネフィットはいまだ明確にされていません。ロボット支援手術は触覚の欠如やリスク管理も課題とされていますが,いまだ初期例であり,今後の発展が大いに期待されます。術者が肺門剥離やリンパ節郭清の際に実感する卓越した操作性,さらにラーニングカーブの短さを,患者さんに対する術後合併症の軽減,QOL向上など明確な恩恵として示せるよう,今後も胸腔鏡手術との比較を多角的に行うことが大切だと思います。

【文献】


1) Nakamura H, et al:Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2014;62(12):720-5.
2) Dylewski MR, et al:Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2011;23(1):36-42.
3) Cerfolio RJ, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2012;143(5):1138-43.
4) Park BJ, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2012;143(2):383-9.
5) Veronesi G:Curr Opin Oncol. 2013;25(2):107-14.
6) Kent M, et al:Ann Thorac Surg. 2014;97(1): 236-44.
7) Adams RD, et al:Ann Thorac Surg. 2014;97(6): 1893-900.

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