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皮膚に瘢痕ができる原因および scarless wound healingの可能性

No.4775 (2015年10月31日発行) P.64

貴志和生 (慶應義塾大学医学部形成外科学教室教授)

登録日: 2015-10-31

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

創傷治癒については湿潤療法,細胞成長因子による治療,陰圧閉鎖療法など新しい治療法が実際に使用されるようになってきました。また,幹細胞を含む細胞治療も臨床応用されてきています。しかし,日常診療では種々の手術を行う患者さんに対し,一度できた瘢痕は消えることはない,と毎回説明しています。実際に,現状の縫合方法では1~数mm幅の瘢痕が残ってしまいます。
scarless wound healingは形成外科の目標ですが,皮膚に瘢痕がなぜ生じるのか,scarless wound healingの実現の可能性について,慶應義塾大学・貴志和生先生のご教示をお願いします。
【質問者】
森本尚樹:関西医科大学形成外科学講座講師

【A】

表皮や真皮乳頭層までの深さの創傷は,瘢痕を残すことなく,跡形なく再生します。ところが,真皮網状層に至る創傷は,形成外科の手技を駆使しても,ある程度の傷跡は残ります。成熟瘢痕を正常皮膚と比較すると,色調の変化,真皮の線維化と皮膚付属器や皮溝・皮丘のパターン(きめ)の消失などがあります。
このうち,赤みや色素沈着など色調の変化は,レーザーなどを用いて軽快が望めますが,線維化を抑制し,皮膚付属器やきめを再生させることができれば,scarless wound healingが達成できることになります。このためには,手術的な治療では困難で,再生医療が望まれるところです。
胎生期のある時期までは胎児は皮膚の再生能を有していますが,胎児に作製した創傷は,炎症反応が少なく,また,胎児真皮の線維芽細胞が皮膚を再生させる中心的な役割を果たしていることがわかっています。このため,瘢痕を悪化させる炎症を抑制することで真皮の線維化を抑制し,再生を促進させる細胞を移植し,皮膚付属器を含めた組織の再生を促すことで,将来的には皮膚の再生を実現することができると思われます。

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