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心房細動と脳梗塞の関連

No.4779 (2015年11月28日発行) P.56

矢坂正弘 (国立病院機構九州医療センター 脳血管・神経内科科長)

登録日: 2015-11-28

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

心房細動と脳梗塞の関連について以下を。
(1)心原性脳塞栓症発症後の抗凝固療法導入時期について。
(2)非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(non-vitamin K antagonist oral anticoagulants:NOACs)の大規模臨床試験によると,頭蓋内出血の発現率はワルファリンと比較して,人種にかかわらず低下することが示されています。その機序はどのようなものでしょうか。
以上,国立病院機構九州医療センター・矢坂正弘先生のご教示をお願いします。
【質問者】
淀川顕司:日本医科大学付属病院循環器内科病院講師
清水 渉:日本医科大学付属病院循環器内科主任教授

【A】

(1)抗凝固療法の導入時期
心原性脳塞栓症急性期は再発率が高いので抗凝固療法が有効では,と期待されますが,一方で栓子の再開通に伴う出血性梗塞もこの時期に高頻度にみられるため,抗凝固療法がかえって出血性梗塞を助長するのではないかという懸念もあります。この問題を解決するためいくつかの前向き研究が行われましたが,結論は得られていません。「脳卒中治療ガイドライン2009」や「米国心臓協会(American Heart Association:AHA)─米国脳卒中協会(American Stroke Association:ASA)ガイドライン2014」では,14日以内に開始することが勧められるとの表記にとどまっています。従来,即効性があるヘパリンで導入しワルファリンに変更する方法がとられてきましたが,近年はNOACsが登場し,頭蓋内出血が少ないという特性のために,選択される機会が増加し,登録研究でその有用性が報告されつつあります。
出血性梗塞には梗塞巣の大きさ,年齢,高血圧などが関連します。特に梗塞巣の大きさは重要な因子なので,その大きさに従って抗凝固療法を,小梗塞では早めに,大梗塞では遅れて開始することが実践されています。欧州では一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)では1日,小梗塞では3日,中等大梗塞では6日,大梗塞では2週間程度待機して開始することが,エキスパートオピニオンとして紹介されています。
抗凝固療法の開始時期について,当院では以下の方針をとっています。
・TIAや中大脳動脈領域1/3未満の梗塞では当日のCTで出血性梗塞がなければ当日開始。
・1/3~1/2の中等大梗塞では1日待機し,1日後のCTで出血性梗塞がなければ開始。
・1/2以上の大梗塞では3~7日間待機し,出血性梗塞や脳ヘルニアがないことを確認して開始。
現在,NOACsの至適開始時期を探る前向き研究が韓国(Triple AXEL研究)やわが国(RELAX ED研究)で開始されています。
(2)NOACsとワルファリンの差異
ワルファリンと比べてNOACsで頭蓋内出血発現率が大幅に低いのは,止血機転,血中濃度の推移および安全域の差異によります。まず,ワルファリンは凝固第Ⅶ因子の産生を抑制するため,外因系凝固反応の最初の反応である組織因子と活性型第Ⅶ因子の複合体形成が起こりにくく,凝固カスケードが発動しにくくなり,出血を起こしやすい一方,NOACsはその系を抑制せず凝固系が発動しやすいのです。次に,凝固抑制箇所の数の違いが考えられます。NOACsはトロンビンかⅩaの1箇所のみ抑制しますが,ワルファリンはⅡ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹの4つの凝固因子の産生を抑制します。抑制箇所が多いほど出血しやすくなります。
さらに,ピークとトラフの関係も考慮に入れることができるでしょう。ワルファリンはピークで効き続けますが,これは出血のリスクに絶えずさらされていることを意味します。一方,NOACsは血中濃度の推移にピークとトラフを有するため,トラフの時相では出血が少なくなるので,その時相を有する分だけ出血が少ないのです。大出血を起こす用量と虚血を発症する用量の差がワルファリンでは小さく,NOACsでは大きく安全域が広いことも,NOACsで頭蓋内出血が少ないことに関連すると推察されます。

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