【Q】
舟状骨偽関節の治療は古くはRusse法などの直視下での整復,骨移植が行われ,固定材料が改善した現在でも直視下手術が広く行われていると思います。MRI画像で得られる近位骨片の血流が悪い場合には血管柄付き骨移植術が行われている一方,鏡視下での舟状骨偽関節手術の報告もなされています。
そこで,鏡視下での舟状骨偽関節手術を行う場合の適応,その限界,手術手技について,新潟手の外科研究所病院・坪川直人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
中村俊康:国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授 山王病院整形外科部長
【A】
鏡視下腸骨移植は舟状骨偽関節に対する最小侵襲手術ですが,その適応はしっかり守る必要があります。術前検査ではX線Slade分類,CTの舟状骨長軸像,MRI,また術中鏡視下所見で総合的に適応を決定しています。
Slade分類Ⅰ~Ⅱ(遷延治癒,線維性癒合など)は,スクリュー挿入のみで骨癒合が期待できるために骨移植は行っていません。最も適した偽関節は,2カ月から数年経過した舟状骨腰部のSlade分類Ⅲ~Ⅳの偽関節で,強い舟状骨Humpback変形,手根骨に手根背屈変形(dorsiflexed intercalated segment instability:DISI)を認めず,偽関節部に大きな嚢腫を形成している症例です。
手術手技を工夫することで可能な症例もあります。Slade分類subtype aの舟状骨近位部偽関節では,鏡視ポータルと掻爬骨移植を行うポータルを変えることで可能です。また,軽度のDISI,Humpback変形症例では,手関節を最大屈曲させ橈骨月状骨関節を仮固定した後に,偽関節部遠位に刺入したKワイヤーを用いて,舟状骨の屈曲変形を矯正させてから鏡視下骨移植を行います。舟状骨骨接合術後の偽関節症例でも,スクリュー抜釘後に偽関節部を鏡視下に掻爬し,骨釘および鏡視下に骨移植を行うことが可能です。
強いDISI,手根中央関節不安定症があり,変形矯正後掌側骨皮質に10mm以上の骨欠損が見込まれる症例では,鏡視下手術ではなく,DISIを矯正するために通常の骨移植を行います。偽関節期間が10年以上にわたるSlade分類Ⅴ~Ⅵ,骨硬化の強い症例では,偽関節部の掻爬が困難であり骨癒合も悪いため,血管柄付き骨移植が適応と考えられます。
まったく不可能な症例は遠位結節部偽関節や近位部偽関節で,手根中央関節から鏡視が不可能な例や骨壊死例,変形性関節症例では鏡視下骨移植の適応はありません。
舟状骨偽関節に対する鏡視下腸骨移植は,手術適応を見きわめて行うことで,早期骨癒合および良好な臨床成績が得られます。